Novel 2st

□歓喜によせて
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小さなランプにお人形、飾り付けられてきらきら輝くもみの樹には神の霊が宿る。
枝を編んで作られたまあるい輪は永遠を、蝋燭は太陽を意味している。

赤は血の色、愛と寛大な神の色。
緑は永久の命を、白は純潔を。

嗚呼、まさか遠くから眺めていただけだったあの光の中に、自分が今いることになるなんて思わなかった。


「お前んとこはクリスマスやんなかったの?」
「殺ったわ。
クリスマスは誰もが空気にのまれて浮かれているから、暗殺には絶好の機会だったの。」
「…そういうんじゃなくてさあ…」

隆太は困ったように眉を歪めた。
言いたいことはわかっているの。
ただ私にはそれは遠いものだった。

クッキーにおもちゃ、漂うソーセージを焼くいい香り。
お菓子の屋台が並ぶイルミネーションの中、子供たちが楽しそうに走り回るのを知っていた。
この視力で少しばかり高いところに立てば、大通りや広場に広がる市場はよおく見ることができたから。

羨ましかった訳でも哀しかった訳でもない。
ただ、この空気にあの上司がわずかでも浮かれてくれれば、もう少し戦いやすくなるのに、とつまらなく感じていた。
華やかな世界とは、私たちは無縁だったから。

「なあ」
「なに?」
「楽しみたくねえの?」
「特にそんな感情は無いわ」

強がった訳でも無く淡々と言って見せると、彼は不服そうな顔をした。

「…おもしろくない!」
「別にいいじゃない、そんなの」
「良くねえの!こういう行事物は楽しまなくちゃいけないの!」
「そんな法律無いでしょ。
だったらどんな顔でいようと私の勝手だわ。」

別に彼が不満だろうとどうでも良いし、私には関係無い。

それにしても一端の高校生がこんなこと主張する姿は、まるで駄々をこねる子供だ。
それに対してあくまでも反抗する私もある意味子供なのかもしれないが、ここへ来てこちらが折れるというのもなんだかシャクだった。

「俺はまだ見たことが無い」
「…なにを?」
「お前の笑った顔だよ!
ほんとに楽しそうに笑った顔、ちゃんと見たこと無い!」

だから、
と彼は手を差し出す。
外へ行こう、出掛けよう。
あの空気の中にのまれてこよう。

「でも私は」
「大丈夫だよ。
だってお前、悪い奴じゃねえもん。」

何も知らないのだろう無垢な笑顔になんだか腹がたった。
けれどそれが無邪気にこちらのことを考えてのことだとわかっていたから、大きくついたため息で水に流そう。

次は無いと思え。


「…なにがあるの?」
「買い物でもしに行こうか。クリスマスだから美味しいもんあるぞ、きっと。」
「そう、わたし甘いものがいいな」

にっこり、微笑んでみせると隆太がそれは嬉しそうに頷いた。
ただこれだけのことでこんなにも喜んでくれるのなら、少しくらいは笑ってやらんでもない。

「そうと決まれば早く行こう、俺コート着てくるっ!」

どたばたと駆けていく少年の背を目で追いかける。
廊下走るんじゃねえ、叩っ斬るぞ!と怒号が響き、いいじゃないクリスマス楽しいじゃない!と反論が聞こえる。
あの二人はまた喧嘩していたのか。

そういえばフロウと遊んでいたジャックは誰に貰ったのか赤いサンタの帽子を被っていたし、隼人や雷舞達は楽しそうにキャロルを口ずさんでいた。
寒さに弱い太郎と由太はこたつでみかんとテレビだろう。

周りはすでに赤と緑と白に染まっていたのだ。

外れていたのは背けていたのは、私だけだったのかもしれない。
やはりどこか強がっていたんだろう。
自分が楽しんでいいのだろうか、なんて、そんなの当然だというのに。

「…感謝しなくっちゃね。」

それを教えてくれた、おバカな笑顔の間抜けな子供に。


【歓喜に寄せて】


ああ、忘れるな。
私は   。
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