Novel 2st

□笑顔
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「大好きだって言ったら、貴方はどうします?」
「くだらない、冗談だろう?」
「いいえ本気です」

にい、と口角を歪めて彼は笑う。
なんとも不快極まりない、憎々しい笑顔だった。

「で。
どうするんですロマンス?」
「お前ギターで殴ったら少しは黙る?」
「丁重にご遠慮いたします」

初めから答えが返ってくるとは思っていなかったらしい。
極卒は自分に話し掛ける前に引き続き、ドライバーを動かし始めた。

不快だ。
答えが無くて良いなら初めから聞くんじゃねえ。
にやにや笑うんじゃねえ。
何がくぅいだ、可愛いつもりかばかやろう。

俺だって必要ないならこんなところ来やしねえさ。
仕方ない、機械に関してこの界隈で顔が利く人間はコイツしかいなかったのだ。


壊れたアンプ。
狂った旋律。
歪んだ音。

直さなくちゃ商売が出来ない。
だけど修理に使う金は無い。
それならコネを使うしか無い。

誰がいいかと蛹に尋ねたら、極卒にーちゃんトコは行かないの?と無邪気な笑顔が返ってきた。
どうするかと蛍に尋ねたら、極卒にーちゃんトコは行かねえの?と悪戯っぽい笑顔が返ってきた。

技術は認める。
けどコイツに頭下げんのだけはシャクだった。


「プライドが高いんですねえ、ロマンスは」
「うるせえ、作業しろ」
「おや?タダでやって差し上げてるというのにそんな口のきき方は無いんじゃないですか?」
「…………。」

返す言葉も無い。
極卒はこちらの苦虫を噛み潰したような顔を見て、楽しそうに笑った。

腹がたつ。
あのガキ共だって浮かべていたのは笑顔だったのに、コイツのはどうにも腹わたが煮え繰り返るような腹ただしさがある。
ああイライラする。
コイツに頼み事するくらいなら、金を出しても他に頼んだが良かったかもしれない!


「ロマンス」
「……。」
「僕は嬉しいんですよ」
「……。」

もはや会話をする気なんて無い。
手持ち無沙汰にアンプの繋がらないままのギターを引くと、ピックに弾かれた弦がコードを辿った。

自分の周りの奴らの曲に、多く溢れるAm。


「僕は嬉しいんです。
貴方が傍にいることが、僕に会いにきたことが。
貴方はそれを不快に思っているかもしれませんが、僕はたしかに嬉しかったんですよ。」


ちらり。
片目だけを動かすように見た極卒は、頬を緩ませてネジを回していた。


「気持ち悪い、にやにやすんな」
「にやにやしてました?」
「それはもう」
「ふふ、そうですか」




【笑顔】

―…腹ただしいという形容詞が最適な。


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