Novel 2st

□スマイル実験室
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「大嫌い」と言ったら
あの人はどんな顔をするだろう?

泣くだろうか、笑うだろうか。
泣いてる彼も笑っている彼も全く想像できなかったので、僕は試しに言ってみることにした。


「ねぇねえユーリ」
「なんだスマイル」
「僕ねぇ、君のことが大嫌いなんだよ」

さあ、どうする?


ユーリはこちらを見つめたまま、しばらくしてから視線を手元の新聞に戻した。
記事には17回目、ポップンパーティ開催決定!の文字がでかでかと踊っている。
次に僕が出るのはいつかなあ、と考えといるとユーリが厨房にいるであろうアッシュに呼び掛けた。

「アッシュ、紅茶が欲しい」
「茶葉はどうするッスか?」
「アールグレイがいい」
「了解ッス」

そして彼は新聞をひとつ折り、ふたつ折りしてテーブルに半ば放るように置いてしまうと、うぅん、と声をあげながらのびをした。
見ているこちらからではどこからなのかはわからないが、こきん、とどこかの関節がのびる音がした。
そのまま肩を押さえながら首を数回まわして、彼はクッキーポッドに手を延ばした。
蓋を開ける。
取り出したのはプレーンクッキー。
そこまで大きくもないそれを半分だけかじりとる。
残りは手に持ったまま、もくもくと咀嚼する音が続く。
視線は窓の外だ。


「ユーリぃ…?」


返事は無い。
ちなみに一連の動作の中で彼の表情は一度も変わっていなかった。

残り半分のクッキーを食べ終わってしばらくしてから、アッシュ君が紅茶を運んで来た。
自分はまだ他にすることがあるからと、そそくさと場を離れる彼に紅茶の礼をして、ユーリはカップに手を延ばした。
静かに口元へ運び、そしてソーサーへとカップは帰っていく。


「ねぇ、ユーリったら」


流石に少し憤慨だ。
こちらの問いに関心の無いような、というよりは完全に無視しているような彼の態度に対し
抗議するような声をあげてはじめて、ユーリはこちらを見た。
ぱちりとあった目は悪戯に細められていて、一拍おいてからその口角がにやりと持ち上がった。


「大嫌い、なんだろう?」
「…………。」
「それならば話などせずともいいではないか」


彼は紅茶を口に運ぶ。
再び僕から目を逸らして自分の世界。

怒ってる?のとは少し違う気がする。
今現在進行形で不服そうに頬をふくらす僕を見て、楽しんでいる訳でもなさそうだ。
じゃあ何、と考えて、


「あ、
ユーリもしかして拗ねてる?」


返答は、無い。
でもカップを手にする彼の手が、一瞬だけ止まったのは見逃さなかった。


「ユーリ?」
「…………。」
「…珍しい、いつも人をからかうのは君の側なのに」

返答は無い。
ただ彼は今度こそ怒ったようにこちらを見て、

「スマイル」
「うん?」
「今度こそ失血死がしたいらしいな?」


こちらを見て、
にっこりと微笑んだ。


「…遠慮しとくよっ!」


【スマイル実験室】

結論→笑う
ああそれはもう、にっこりと、ね!


→おまけと後書き
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