Novel 2st
□狼とお伽話
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ぺらり。
ページをめくると少女がその顔に笑みを浮かべ、野道を行く姿が目に入った。
頭に被った赤いフード。
エプロンドレスを身にまとい、手には大事そうにカゴを持って。
「…なんですか、それ?」
「赤頭巾だ」
「そんなのはわかります、俺が聞いてるのはなんでアンタが絵本なんか読んでるんスか、って事です」
頭巾と同じ赤い色の瞳の前へ、同じく赤い色の紅茶を置く。
ローズヒップか、と彼はちらりとそちらを一瞥した。
「スマイルの部屋に山と置いてあった。」
「ああ、成るほ…」
「ツァラトゥストゥラの隣にな」
「……………。」
メルヘン思考の彼らしい、という考えが一瞬で打ち砕かれ、アッシュは苦虫を噛み潰したように額にシワを寄せた。
もっともそれは、長い前髪のせいでハタからわかるような物では無かったが。
「…で、なんでまたアンタはそんなものを?」
「ふむ、強いて言うなら」
「言うなら?」
「いつもの気まぐれだ」
にい、と笑う彼の悪戯っぽい瞳に思わずため息をつく。
おとぎのくにの哲学者に、快楽主義ないじめっ子。
もう随分と一緒にいるとはいえ未だ慣れるには至らない。
何を言い出すか全く予想できない彼等は扱いづらいことこの上無いのだ。
それでも、
俺がここにいるの、は
「赤頭巾、三匹の小豚、…あとは小山羊が留守番する話もあったな」
「なにがッスか?」
「狼が敵の話だ。嘘つきな羊飼いもたしかそうだったか。」
「………それが、なにか?」
「勿体ない話だと思ってな」
ユーリは紅茶をゆっくりとすすり、近くに置かれたクッキーに手をのばした。
さくり。
軽い音がして焼き菓子は彼の口へ消えていく。
「狼を敵にしてしまっては、こんな美味なものも口にすることができないだろう?」
そう、彼はにっこりと笑う。
「それは褒め言葉ととっても?」
「構わんぞ。元よりそのつもりだ。」
それでも、
俺がここにいるのは。
「有難う、ユーリ」
ここに居場所があるからだと、そう信じている。
【狼とお伽話】
―…ここに居場所があるのは、みんな同じだけれど。