Novel 2st

□君への鎮魂歌
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小さな頃から暗闇が苦手だった。

不安になる。
飲み込まれそうになる。
孤独感に支配される。

それについて暗所恐怖症というものがあるらしい。

素直に「恐怖症」で済ませられたならそれでよかったかもしれない。
銃を握る仕事がてら、怖いだなんて言ってられないのだ。

恐怖なんて塗り潰した。
ハンマーが下りて火花が散る、その一瞬の光を求めるようになってから、

もう十数年が経過してしまっていた。


「KKはもう暗闇怖くないのか?」
「怖いさ」
「じゃあなんでソレ続けるのさ?
もう仕事の選べない歳じゃねえだろ」

ソレ、とMZDが指差したのは、未だ薄く煙の立ち上る狙撃銃。

「…なんでだろう、な」
「やっぱこの仕事捨てたくないの?
兄ちゃんの名残があるから?」
「いや、兄貴は別にもう…」

なんでだろう。
暗闇が嫌いなはずなのに、怖くてたまらないはずなのに、その暗闇から逃れられない自分がいる。

もう明るみに出ていくことはできないと、表の世界を心の何処かで拒絶しているのだ。

「…もう戻れねえから、かな」

小さな子供だった自分が小さな手の平で鉄の塊をにぎりしめたあの日から今の今まで、いばら道は続いている。

歩いていく道には無いというのに振り返ればそれは広がっている。
戻ることを許さないように、そこには後ずさる隙間すら存在しない。

それならもうこのまま行くしかないじゃないか。

「それでいいのか?」
「まあ、…いいんじゃねえ?」
「…そっか」

もうこれでいいと思ってる。
今更なにか感慨深いものを感じる訳でもないし、どこだってなんだって、絶対誰かが掃除しなきゃなんねえんだ。

たまたまそれが俺だっただけのこと。
それに不平不満を言うつもりも、はたまた有り難く思うつもりも全く無かった。

ただ今を生きるだけ。
明日にはもう自分はいないかもしれない。
それならただ、今現在を全うするだけ。

ほんとに、
ただそれだけだった。

「じゃあそんなミスターに一つお歌を教えて差し上げましょう」
「あ?」
「まあまあ、そんな怪訝な顔をしませんと。
…votum stellarumでいい?」
「悪ィそれ元曲もREMIXも知ってるから」

なんだかんだ言いつつ聞いててくれてんじゃん、と笑う神サマにつられてくつくつと喉が音を漏らす。
それを見たMZDは一層笑顔を浮かべてこう言った。

「じゃあさ、俺お前が死んじゃった時用にレクイエム作っといてやるよ。
ミスターが好きそうな音で。」
「へえ。神様お手製か。
そりゃあ有り難い。」
「だから
それができるまで死ぬんじゃねえぞ」

無理なお願い。
少し気を抜いたら死ぬかもしれない業界で、彼は死ぬなとおっしゃった。
それはそれは大まじめな目をして、だけど口角を大きく上げて。
笑いながら神様はおっしゃった。

「…目茶苦茶」
「いいんだよ、目茶苦茶で」

にたにたと笑い続けながら彼は楽しげに俺の眼を見つめた。

「だって俺、神様だもん」



【君への鎮魂歌】
―…かみさま、理由になってません



→おまけ、後書き
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