小話

□立役者
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何ヵ月か過ぎた。
危険運転する運転手のタイミングが、だんだん分かってきた。月・水・金曜日のいずれかに巡ってくるみたいだ。
皆もそうと分かったからか、通勤ラッシュなのに人が少ないときもある。
やっぱり、安全運転のほうが好きなんだろうなあ。
そんなある日の放課後。いつも通りにバスに乗ると、たまたまあの運転手だった。
座席は帰宅する学生で殆ど埋まっていたから、仕方無く吊革を掴む。
ふと隣を見ると、いつの間にか彼がいた。無表情のままに、窓の外を眺めている。
「次は――、青森中学校前――」
私がいつも乗り降りしてる停留所まで、あと2つ。確か彼は大体この辺で降りる筈だ。
と思ったのに、隣にいる。何でだろう、と不思議に思っているうちに、私が降りるべき停留所が近付いてきた。
「次は――、堀井――」
アナウンスが鳴ったから、ボタンを押す。すると舌打ちが聞こえた。
多分、減速が間に合わないからだろう。たまにこういうことがある。
「……悪いのは、貴方じゃない」
聞こえるか聞こえないかの呟きのすぐ後、私は前方に仰け反った。
バスはどうにか止まれたみたいだ。何だか気まずいから、足早にその場を去る。
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