小話

□立役者
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バスの運転シフトみたいなものって、どういう風に決めてるんだろう。
さっぱり分からないけど、だいたい1週間に1回くらいは嫌われ運転手のハンドル裁きの被害者になる。
急発進、急ブレーキの連発で、私は何時も通り、前に後ろにつんのめっていた。
「……大丈夫か」
いつもこのバスに乗ってるのか、異彩を放つ彼が、私の右横で呟いた。
「大丈夫、です」
「そうか」
彼は車窓から景色を見ながら、相変わらず無表情だった。
どうしてそんなに、冷静でいられるんだろう。
この騒がしい朝のバスで、他人である私を気に掛ける余裕さえある。
見詰めていると、不思議な目で見られた。慌てて、目を逸らす。
その時、また急発進して、私は後ろにバランスを崩し――
「大丈夫か」
背中を支える、彼の左手。そして、無表情の声。
「済みません」
「謝らなくて、いい。礼なら受け取る」
「……有り難う御座います」
すると彼は、嬉しそうに笑った。いつも無表情だから、妙に新鮮だった。
何だか嬉しくなって、こんな風に笑う彼の姿を見せてくれた原因を尊く思った。
彼が私を気に掛けてくれるのは嬉しいし、笑っているところをもっと見たい。
だから、乱暴な運転手と、もっと巡り会えばいいと思った。
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