小話

□立役者
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バス停で待つだけで、横暴な運転手による運転だと分かる。
ギリギリまで減速せず、バス停直前で摩擦音を盛大に響かせるから。
それにしても、バスに乗る人って意外に多い。だから私が待っているバス停に来る頃には、既に座席は満席だ。
相席だったら空いてるときもあるけど、私は見知らぬオッサンと隣り合わせになりたくない。他の多くの人達も、そう思うだろう。
必然的に、吊革を掴んで、目的地まで立ち続けることになる。
でもバスの中は混んでるから、そう上手くはいかない。所々に掴まれる場所はあるけど、触れたら奇跡だ。
「次は――、小林ショッピングセンター前――」
古っぽい車内アナウンスが鳴った直後、私の身体は大きくバランスを崩した。
慣性の法則により、進行方向につんのめった身体が、隣の男子学生とぶつかった。
「あ、……済みません」
謝るけれど、彼はただ頷いただけで、その目は無表情だった。
異彩を放っている、というか、他の人達とは一線を画している気がした。
近寄りがたいというか、硝子細工みたいに大事にしなきゃいけない、そんなイメージだった。
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