小話
□必要
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「ねえねえ番長」
それが自分の渾名だということは、クラス中に広まっている。
「何」
「番長ってさ、何時も勉強してて偉いよね!」
飛び切り……本人はおそらくそう思っているだろう……の笑顔を向けられた。
正直、不細工だ。
「どうやったら、勉強出来るかな」
「勉強すれば、出来る」
「確かにそれは、そうだけどさっ」
語尾に星が飛んでいる。
やはり不細工だ。
「だからさ、あたしは次の英語予習してないから、番長に見せて貰おうと思ったんだよ」
自分に向けられているのは、丁度良い模範回答への期待の眼差し。
不細工な癖に、調子良く笑って。
……自覚するべきだと思う。
「勝手にすれば」
そして、無言のままノートを渡す。
「ありがとう!」
一瞬、何と無く嬉しかったけれど、……不細工だから、やめてくれないか。
言える勇気も必要性も感じないから、机に目を落とした。
自分は今、昨日買ったばかりの小説を読んでいる。
所謂青年向けの絵や趣味の悪い写真が記されている訳では無いけれど、カバーは外せない。
書名は『生きる必要を感じるとき』。
著者は精神不安定な若い作家で、これを書いた数日後に自殺を図った。
しかし、それは叶わず、今日まで二年と三ヶ月、目を開けること無く、『生き続けて』いる。
そういう人生も、アリだと思う。
自分と彼との違いは、自分で動けるか否か。
目を開けているか、否か。
それだけでしかない。