お題部屋

□ふいうち
3ページ/8ページ

 
部屋に入れば、シグバールはその瞳をぐっと細める。
小さな灯りは灯ってはいるものの、目を凝らさなければうまく部屋を見渡せないほどに部屋は暗かった。
片目だけで視界をこらしながら、シグバールが部屋の中を進んだ。

この機関員の部屋は、ゼムナスに信用を受けている事に関わっているのか、他の者より面積が広く、大きなコンピュータが存在していた。
その周りには研究室には備わっていないほど重要な事を記されている書物が大量に棚に収められていた。
そんな大事な物が無防備に置かれているだけあって、この部屋にはそう簡単に出入りする事は出来ない。
部屋の主に許可を取るか、ゼムナスに許可を取るか。そうしなければ決して立ち入ることは許されない。
「自分は情報を求めて来た訳ではないから、警戒すんなよ」と、一人呟いてシグバールが部屋の本棚に手を伸ばした。
本棚にはその書物が大量に保管され、他の物を納める事ができない位ぎっしりと隙間無く収められていた。
だがシグバールの持つ本は元々この場所に保管されていた物であるからして、どこかに僅かな隙間ができている筈だった。
暗くて瞳だけでは感覚が分からない為に、手の伸ばして一つ一つの段を手探りで隙間を探す。
手には大量の本が触れている。その本が触れなくなった時、そこに隙間がある事を示した

幾つもの棚に手を伸ばし感覚を探って、やっと隙間を見つけた。
手を伸ばすと、その隙間は棚の一つの段の半分ほどの大きさで開いていた。
その場所に保管されている書物が大量に抜かれていたのだ。
手に抱えることで示すとすれば、かなりの量を腕に持つ事になる。
「そんだけ大量の本を持てば、そりゃあ一つ位落とすだろうな」と僅かに微笑んで、手に持つ本をその棚に収めた。
本一つ収めても余裕に隙間ができる感覚に、シグバールの笑みが綻ぶ


「それじゃ、出てくとするか。」


用は済んだ。
他にシグバールがこの部屋に居る理由も無く、少しかがめた膝を真っ直ぐに直して、部屋に出口に歩いた。
眠気が来たのか、少しだけ目をこする。
目をこすれば、一瞬だけ視界が塞がれる。
視界が塞がったまま足を動かせたのが悪かったのか、何かに身体がぶつかった。
痛みは無いが、目から手を離してぶつかったものに対して瞳を凝らした。
それはシグバールの視線に気付く事も無く、
肩を上下に動かして呼吸を繰り返す。
機械質の硬いイスに腰を任せる姿勢のいい姿に、シグバールが顔をかがめる。


「腰痛めるぞってハナシだ。サイクス」


その声に気付きもせず、この部屋の主―サイクスが寝息を吐いた。
サイクスが腰掛けるイスの先を見れば、同じように機械質の机が存在した。
机の上には大量の書物が詰まれ、その内の一つはサイクスが読んでいたんだろう。
ページを開いたまま、机の上の灯りに照らされていた。
状況を見る限り、また心の研究辺りの情報でも調べていたのだろうか。
調べている内に、いつのまにか眠気に襲われそのままの状態で眠ってしまったのだろう。
何ともサイクスの性格からでは想像できない抜けた姿に、シグバールの口元が上がった。
灯りに照らされた、傷をつけてはいるものの中々の美しい顔は、シグバールの存在に気付く事も無く瞼を閉じていた。無造作に降ろされた長い蒼い髪が、肩を動かすたびに揺れる。

冗談半分に、シグバールが顔をサイクスに近づける。
間近で見れば、傷があるのがもったいないくらい綺麗な顔をしていた。
そこで、ふとシグバールの笑みが消える。無表情のまま、じっとサイクスを見つめた。

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ