お題部屋

□ふいうち
1ページ/8ページ

=無視点=


存在しなかった世界の赤黒い空が、更に漆黒を深めた頃。
機関員のほとんどが寝静まっているであろう時間に、存在しなかった城の廊下には足音が響き渡った。
長い黒髪を首下で一つに結んだ、傷の付けた顔が懐に抱える本に一瞬視線を落とす。

シグバールは一人、廊下を歩き己の目的の場所に向かっていた。
その目的場所は、自分の部屋でもなければ、機関員に呼ばれた訳でもない。
向かっている場所はどこか、シグバールが抱える本が、それを物語っていた。


「アイツでもヘマすんだなぁ…」


独り言をつぶやいて、口を緩めて鼻を啜る。
シグバールの抱える本は、ところどころが傷をつけ、一部埃をまとっていた。ハッキリ言ってしまえば、随分と古びた本だった。
その本が、廊下に一つ落ちていたのだ。
それを自分の部屋に向かうため廊下を歩いていたシグバールが見つけ、元ある場所に運んでいた。

初めは城の研究室の物だと察し、ヴィクセン辺りが落とした物だろうと思っていたが、研究室にある書物は全て大事に保管されて、傷を付けた物など無かったはずだ。
傷物になってしまったとしても、ヴィクセンにより修復されるか、新たな被り物に取り替える。
それがされてないという事は、この本は研究室の物ではない。
研究室の物でないとすれば、他に書物を保管している場所の物。

研究室の他に、書物を保管している場所という場所は、シグバールは一つしか知らない。
最初から機関に居るシグバールは、後に入った物に比べれば、はるかに城の中を熟知している。
その人物が他に一つしか場所を知らないという事は、そこしか思い当たる所は無いだろう。
口を綻ばせたまま、シグバールが足を進めた

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ