00長編

□02
1ページ/10ページ

「沙慈君。」

「伊織さん・・・」

伊織は独房に入っていった。
ついさっきも、ミレイナとラッセさんが食事を運びに来ていたらしい。
しかし手をつける気はないのか、沙慈は項垂れたままだった。

「どうして、君は・・・」

「何?」

「君たちは、戦っているんだ?」

持ち上げられた顔は、青白かった。
まだ事実が受け入れられないのだろう。
無理もなかった。
あんな目に遭い、更に自分を保護したのはソレスタルビーイング。
簡単に受け入れられるわけもない。

「世界を変えるためよ。」

「関係ない人たちを巻き込んでまですることなのか!?」

「関係なくなんかない!」

伊織が出した大きな声に、沙慈はたじろいだ。

「ごめんなさい、大声出して。」

伊織は沙慈に謝った。
ふよふよと漂っている赤ハロが伊織の様子を心配して声をかけた。
大丈夫と返し、伊織は沙慈に向き直った。

「連邦政府の恩恵の裏では、必ず誰かが犠牲になっているのが事実よ。
多分、あなたを含めてほとんどの市民はそれを知らないけれど。」

「そんなこと・・・!」

言い返そうとしたが、沙慈は思い止まった。
ここに来るまでに見てきたもの、あれは全て現実だった。
濡れ衣を着せられ、命の危機にまでなった。
沙慈は目を閉じて、ズボンをギュッと握っていた。
伊織は彼が何を思っているのか察し、出口に手をかけた。

「もし何か知りたいことがあれば、答えられる範囲で答えるわ。
あと、赤ハロの情報も閲覧できるから。」

「あの、・・・刹那は仲間を迎えに行ったんだね。」

「ミレイナ達から聞いたのね。」

「大事な仲間なのか?」

「ええ、大事な仲間よ。」

そう言い残して、独房を出て行った。



「ティエリア」

独房から出て通路を渡っていると、ティエリアの背が目に入った。
伊織が呼び止めると、ティエリアはガイドレバーをしまった。

「マッチングテストはどうだった?」

「エクシアの太陽炉でも、安定稼働領域に達していない。まだまだこれからだ。」

ふぅとため息をつくティエリア。
イオリアが残したツインドライヴシステム。
この四年間で、ティエリア達はデュナメス、ヴァーチェ、キュリオス、ジークレンの太陽炉を組み合わせて実験してきた。
しかし、結果は得られない。
机上の空論か、はたまた数百年先のオーバーテクノロジーか、実験が成功すればこの上ない戦力となる。
伊織はティエリアの背中を軽く叩いた。

「障害があればあるほど大きな力になってくれるって思えば、きっと大丈夫。」

「君は相変わらずだな。」

「それどういう意味?」

「前向きな姿勢は大切だという意味だ。」

ティエリアは穏やかな表情で笑った。
四年前には見られなかったような笑顔だ。

「君はこの四年間どうしていたんだ?」

「ある人のところで、お世話になっていた。
何も言わずにここへ戻ったから、死んだと思われて居るんじゃないかな。」

カタロンには、レイチェルは死亡したと連絡が行っていることだろう。
それでいいのだ。
伊織の横顔を見て、ティエリアはふっと微笑んだ。
彼女の心を察したのだ。

「生きていればまた会えるさ。」

「・・・そうだね。」



コンテナ内にて

「イアンさん!」

小さな端末を使って作業をしていたイアンに、伊織が声をかけた。
イアンはあまり変わっていないように見える。
少し口元の皺が濃くなったくらいじゃないんだろうか。

「お前さんは、随分大人っぽくなったな!
MSから離れていたんだろう、腕が後退していなければ良いがな!」

がははと豪快に笑うイアンは、伊織の背中をバシバシと叩いた。
それなりに痛いし、冗談には聞こえないから焦る気持ちも生まれたが、懐かしいやりとりにふいにほころんでしまう。
イアンが調整していた機体は、渦中のダブルオーではなくガーディニアルだった。

「ガーディニアルには、ミドハロも乗れるんですか?」

「いや、四年前のあれも所詮は急ごしらえの物。
もともとジークレン専用の支援システムも無かったからな。ハロは無しだ。」

「そうですか。」

「重大な人手不足も、理由の一つだぞ?」

「心に留めておきます。」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ