甘味肆

□たいおん
2ページ/4ページ



花の色よりも新緑が鮮やかになるこの季節。
高校にも慣れた頃、なまえは放課後にバスの時間まで図書室で勉強するのを日課としている。
目指している学校が中々のレベルなため、進路のために今から頑張ろうという心がけだ。


そして、
なまえが放課後の勉強を頑張る理由はもう一つある。


なまえの前に座って本を読んでいるのは、結城夏野だ。
彼の成績は非常に良い。
新入生テストでは上位者であった。
なまえはといえば、中の中。
自分でも情けないと思うのと、テストで夏野に頼りたくない、頼られたい一心である。



(んーここの訳が分かんない)

なまえがやっているのは古典の予習。
授業を理解しやすくするために、なまえは訳も予習の段階でやっておく。
なまえがチラッと夏野を見ると、夏野は相変わらず本を読み進めていた。

「夏野君、ちょっと本を探してくるね。」

「あぁ。」

どうしても自分でなんとかしたいなまえは、原典と現代語訳が載っている本を探すことにした。
春先は部活が終わっていないせいか、二人以外の人がいない。
当番の生徒は今日は病欠らしく、司書の先生には終わったら職員室に来てと言われている。

(レファレンス出来ないじゃん・・・)

なまえは軽く困ってしまった。


「現代語訳だけならこの本、原典も押さえるならこっち。」

「夏野君!」

なまえの後ろには、何冊かの本を持った夏野が立っている。

「ここ、今は俺たちしかいないし、なまえ本探すの苦手そうだから。」

「そんなことは・・・」

「まぁ探せたとしても、一番上だからなまえには取れなかったぞ。」

夏野が指さす先をなまえが見ると、そこには夏野が持っている本と同じ背表紙がある。
確かに、探せたとしてもなまえの手の届かない場所だ。

「・・・ありがとう」

少し不服そうななまえに、夏野は意地悪そうな顔をした。

「嫌だったんなら別に戻しておくぞ。」

「ダメダメ!
夏野君、助かりました!」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ