甘味肆
□失恋ソング(木吉)
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合唱部の練習場所からは、体育館が見える。
見えたところで何かあるというわけではないが、なまえには意味があった。
バスケ部の人達が見える。
喉が乾き、立っているのも疲れてくる夏の部活。
休憩が重なって体育館から出てくるバスケ部員が、練習場所からは見える。
「何見てんの、なまえ!」
「うわっ!
驚かさないでよ、ビックリするじゃん!」
休憩中、持ってきた飲み物を片手にボーッとするなまえを、部活仲間が驚かせた。
「ほほぉ、バスケ部ね!
アンタも好きだねぇ。誰を狙ってるの?」
「狙ってるとか無いから!
汗流してる男子ってカッコイイじゃん?」
なまえはバレバレの嘘をつきながら、必死に隠す。
部活仲間は、なまえの嘘の下手くそさを知っていたが、何も言わなかった。
「ふぅ〜ん。
あ、部長呼んでるから休憩終わりみたいだよ!」
「今行く!」
なまえが男子バスケ部の木吉を知ったのはつい最近のことだ。
たまたま変な高校生に絡まれたところを助けてもらった。
平々凡々。
チャラくもないし、凄く地味というわけでもない。
そんななまえが、練習で電車を乗り過ごしてしまった日に絡まれて、助けてもらった。
怖かったなまえにとって、木吉は王子様みたいに見えたのだ。
それから、この場所で見えることを初めて知った。
自分のことを覚えてくれている確証は無いが、なまえは一言だけでもお礼を言いたかった。
でも言えずに燻る自分がこうして居るのが現実。