甘味肆

□命令するのはやめてよね!(赤司)
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帝光中バスケボール部。
バスケットボールの強豪校として、その名を全国に轟かせている。
中でも十年に一人の天才が五人同時に存在していた時は“キセキの世代”と呼ばれ、黄金期を築いていた。



みょうじなまえの彼氏、赤司征十郎は帝光中バスケ部主将であった。
目の前に座って静かに読書する彼とは対照的に、なまえは必死にペンを動かして問題を解いていた。
季節は冬、中学三年の彼女らにとって、今はまさしく受験戦争中なのである。
とは言っても、京都にあるバスケ強豪校“洛山高校”から声がかかっている征十郎は受験など気にしなくていいのだ。
どこにでもいる平凡女子中学生のなまえは、恨めしげに征十郎を見る。
彼がなまえの視線に気がついて顔を上げた。

「何か用?」

「別に。進路決まってる人はいいねって思っただけ。」

「仕方ないだろ、なまえは一般受験なんだから。」

征十郎はぱたりと本を閉じてなまえに顔を近づけた。
何よ、となまえは後ずさる。
そんな彼女の顔を、征十郎は両手でがっと掴んだ。

「何!?」

「前髪邪魔そう・・・ヘアピンある?」

「あるけど。」

「出せ。」

少し強い語気に、なまえは思わず肩を震わせた。
たかがヘアピン一本ごとき、さっさと出してしまえば事は終わる。
なまえはポーチからヘアピンのケースを取り出し、その中から一本のヘアピンを征十郎に差し出した。
ヘアピンを受け取った征十郎は器用になまえの前髪をいじり、髪の毛をまとめ上げた。

「これですっきりしただろ?」

「うん。」

勉強中には、気をつけていても俯いてしまう。
こうして前髪をアップにしていれば、手元も暗くならないし見にくくならないだろう。

「なまえはその髪型の方が似合うよ。」

「ありがとう。」

「明日からはその髪型で来てね。」

「は、」

なまえはしまった、と思った。
赤司征十郎、可愛い顔して中身は超弩級の俺様。
逆らう奴には容赦しない、一番嫌いなものは言うことを聞かない犬。
なまえが彼と付き合っている理由は、彼が真摯になまえに向き合ってくれていることとほんの少しの恐怖だ。
征十郎に目を覗き込まれると、何も言えなくなる。
普通の女の子のように胸が苦しくなるからとかじゃない、本能的に逆らうなとなまえが自身に言っているのだ。

「返事は?」

「・・・分かった。」

「ん、やっぱりなまえは可愛いよ。素直だしイイコだし。」

なまえを好きになって良かった。
ちゅ、と額に軽く口づけをされる。
どうしてこうも飴と鞭の使い分けが上手いのかな、なまえは甚だ疑問に思っていた。

「ねぇ、征十郎君。」

「折角なら髪の毛切ろうかなって思ってたんだけど、どうかな?」

「駄目。」

征十郎は立ち上がって、なまえが座っている椅子まで近づいた。
そのまま後ろからなまえをその腕の中に閉じこめ、髪の毛を一房手に取る。
そこに唇を落としている彼を見て、なまえは一気に赤面した。

「君に一番似合うのはこの長さ。変えることは許さない。」

「でも、」

「でも、とか言わないって約束したよね?」

なまえを抱きしめていた手がするすると上にあがり、なまえの首筋に辿り着く。
つつーっと撫でるその仕草に、なまえは小さく声を上げた。

「返事は?」

「はい・・・」






命令するのはやめてよね!
そんなこと、私が彼に言えるはずもない




お代配布元:ひよこ屋
 

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