甘味肆

□代わりなんて、いくらでも(レイ)
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今の私は何番目の私だろうか。
そんなことさえも分からなくなるくらい、私は私に代わってきた。
私がいなくなれば、新しい私がエヴァに乗る。
そうやって“綾波レイ”という存在を、世界に残してきた。



「レイ!」

後ろからの声に、レイはゆっくりと振り向いた。
ネルフ本部内通路、女性の高い声はよく響く。

「はぁ、足早すぎ・・・」

「何か用ですか?」

「そうそう、最近の調子はどうかしらって。」

ニコニコしながら言うのは、ネルフ本部で医師として働いているなまえだった。
レイが何故そんなことを聞いたのか疑問に思っていると、それを察したなまえが答えた。

「パイロットの心の様子も、医師として把握しておかなくちゃね。」

無い胸を思いっきり張って、なまえは得意そうにした。

「変わりはありません。」

「そう?最近のレイ、何だか楽しそうに見えるわ。」

「え・・・」

「あ、もしかしてシンジ君とまたいいことあったとか?」

「どうして、そんな風に思うんですか?」

「どうしてって・・・」

ネルフ司令碇ゲンドウの子息であり、サードチルドレンの碇シンジ。
彼が来てから、レイに若干の変化が起きたのはなまえの気のせいではないはずだ。
なんと言うか。
表情が柔らかくなった気もする。

「あとは口数が増えたよね。」

「そう、ですか。」

「シンジ君からお弁当貰った日とか、嬉しそうだったじゃない。」

レイは視線を下に反らした。
言わない方が良かったかなとなまえは思ったが、レイの表情を見て改める。
レイは微かに頬を赤らめていた。
何かを慈しむような、優しい目線だった。

「・・・ポカポカしました。」

「ポカポカ?」

「碇君にお弁当を貰ってポカポカした。
だから私も、碇君にポカポカして欲しいんです。」

「とっても素敵!きっとシンジ君も喜ぶわよ。
レイがそんな風にしてくれるなんて、嬉しいもの。」

その気持ちは大切にしてね。
なまえはトン、とレイの胸を軽く叩いた。
仕事があるからと言い、なまえはその場を後にする。
レイはそっと胸の前で手を握った。
こんな気持ちは初めてだった。
今までの“綾波レイ”は、こんな気持ちを抱いたことがあったのだろうか。
それはどれだけ考えても、レイには分からないことだった。
今の綾波レイだけの気持ち。
碇シンジに対する、温かい気持ち。

「私だけの、気持ち・・・」

彼女を彼女足らしめる、唯一無二の気持ち。










代わりなんて、いくらでも
“私がいなくても代わりはいるもの”
今だけは、それが言えなかった






お題配布元:Mr.Prince
 

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