甘味肆

□キミが生きる意味(アスカ)
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私はいつでも完璧なの。
頭だっていいわ。
大学の勉強なんて、苦労している人間の気が知れない。
スポーツだって、芸術分野だって、私は何でも出来るの。
誰かに負けるなんてあり得ない。
私は何でも出来るの。
エヴァとのシンクロ率だっていいし、操作だって他のチルドレンより優秀だわ。

私は何でも完璧よ



「完璧なのよ―――」

隔離された病室の中、異様な清潔感のせいでなまえはまるでドラマを観ている気分になった。
患者用のベッドの側に椅子を引いて持ってきて、なまえは横たわる少女に目を向ける。
整っていた顔はすっかりやつれ、艶やかな赤茶色の髪の毛は傷みきっていた。
なまえは虚ろな目をして天井を見上げる少女の名を呼んだ。

「アスカ」

返事はない。
ぶつぶつと口の中で言葉が噛み砕かれる。
そしてそれがなまえに伝わることはない。
なまえはアスカの顔の前に手を翳すが、反応は何もない。
アスカは廃人になってしまっている。
心が壊れてしまったために、何も感じることはないのだ。

「アスカは戦わないの?」

ガタン、と無機質な病室に大きな音が響く。

「エヴァに乗れって言うの?」

眼球だけが意思を持ってなまえを追う。
先程のは、アスカの反応に驚いたなまえが椅子を倒したためであった。

「私は必要とされていないのよ」

「そんなこと・・・」

“ない”とは言い切れないんでしょう?という声がはっきり聞こえた。
エヴァとのシンクロ率がマイナス値に落ちたチルドレンは要無しだ。
その場で見捨てるような真似はしないが、チルドレンとしての価値はなくなる。
エヴァに乗るために今まで頑張ってきたアスカにとっては、彼女の全てを失ってしまったのと同じだった。

「エヴァに乗れない私なんていらない」

「アスカ・・・」

「私には、エヴァしかない」

感情のこもらないアスカの声が、部屋中に霧散して消える。
なまえはアスカを見ていて同情など湧かなかった。
かわいそうだなんてもっと思わなかった。
なまえが好きだった気丈で可愛らしい面影が消えてしまったことが寂しかった。
突然、ポケットに入れていた携帯のバイブが振動し始めた。
バイブを切り、なまえはアスカにただ一言。


「アスカがエヴァに乗っていてもいなくても、私には関係なかったよ」


アスカは夢を見ていた。
長い長い廊下を走り、正面に現れるドアをその都度開いていく。
小さなアスカは、その先にいる母親めがけて叫んでいた。

私はここよ
ここにいるのよ
だから私を見て

返事はない。
それでも走り続けるアスカの前に、一人の少女が現れた。
アスカは彼女を追い越そうとするも、自身より体の大きいその少女に捕まってしまった。
行かなくちゃ、お母さんのところへ。
アスカがそう叫ぶと、少女は切なそうに首を横に振る。
お母さんはいない、いないんだよ。
嘘よ、嘘よ。
本当だよ、私はあなたに嘘などつかないもの。
そう言った少女は目から大きな雫を溢し、アスカを抱きしめる腕の力を強くした。
アスカは少女を見上げる。
確かにその少女は、アスカに嘘を付かない人物であった。



「なまえ!!」

『あああああァァァ!!』

「パイロット保護を最優先、エントリープラグ射出!」

「出来ません、参号機とのコンタクトが強制解除されました!」

「使徒、尚も接近!!」
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