甘味肆

□一人ぼっちヒーロー(シンジ)
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彼はいつも一人で戦っていた。
私が見るとどこか遠くを見つめていて、話しかけると消えてしまいそうな笑顔を見せた。
辛くて仕方ないような思いをしているのは彼のはずなのに、痛むのは私の胸ばかり。
彼の、助けになりたくて。
隙間に入り込まれるのを嫌いそうな彼の中に、私は少しずつ踏み込んでいった。
初めは歓迎なんてされるはずもなく、いつも拒否されていた。
悲しくはなかった。
他者に近づこうとしても腫れ物扱いされてしまう、そんな彼を見ている方がよっぽど悲しかった。





「なまえ」

なまえはすぐに振り返った。
後ろにいたのは同級生である碇シンジ。
通学用のリュックを背負い、片手には何かの紙袋を持ってなまえに手を振っていた。

「ネルフ行くの?」

「うん。なまえもみたいだから、一緒にと思って。」

シンジはなまえが持っている紙袋に目をやった。
紙袋にはお弁当箱が入っていて、ネルフで働く父親に持っていくためであった。
シンジの方も同じであり、彼は同居人兼保護者の葛城ミサトに持っていく。
二人並んで歩き、ネルフ本部へ直通の鉄道に乗り込んだ。
ガタガタと揺れる席に腰かける。

「シンジ君、今日は訓練あるの?」

「いや、今日はミサトさんにお弁当届けるだけ。最近体重増えたから、手作り弁当がいいって言われて。」

苦笑しながらも、シンジは柔らかい表情を見せた。
初めて出会ったときは想像もしていなかった笑顔に、なまえはシンジに近づけた気がした。

「シンジ君の料理はプロ級だもんね。」

「それは褒めすぎだよ。」

「ううん、本当のことだよ。
またシンジ君のお弁当食べたいな。」

なまえがそう言うと、シンジの顔がほんのり赤くなった。
シンジが「うん」と頷いた直後、電車は目的地に到着した。










「シンジ君、」

「僕に構うな!!」

バシッと弾かれた手が、じわじわと痛んだ。
実際は涙が出るほどの痛みでもないのに、なまえの目には涙が溜まっていた。
あぁ、また振り出しへ戻ってしまった。
なまえは一連のことを父親から聞いていた。
フォースチルドレンの事故、セカンドチルドレンの精神汚染、ファーストチルドレンの死。
シンジを取り囲んでいる世界が歪み始めている。
その歪みは、シンジの心を固く閉ざすのには十分だった。
なまえは叫ぶシンジに構わず、彼を後ろから抱きしめた。

「辛い、よね・・・」

「なまえに何が分かるんだよ!」

「分からない!けど・・・」

なまえはエヴァンゲリオンパイロットではない。
戦場に出ることもない、傷付くこともない、目の前で死体を見ることもない、友を手にかけることもない。

「今のシンジ君を見てると辛いよ・・・」

「!そんなの、なまえの勝手じゃないか。」

「そう、私の勝手だよ。
だからシンジ君の傍にいて、こうしてシンジ君にくっついてるの。
シンジ君は一人ぼっちじゃないって、言いたいから・・・」

抱きしめた腕に力を込めた。
どうか一人ぼっちで戦っていると思わないで。
何にも力になれないけれど、私はシンジ君を想っている。

「我が儘だよ・・・そんなの・・・」

シンジはその場に崩れた。
なまえが後ろから回した手を掴み、嗚咽をもらす。
静かに響くその声は、悲痛なシンジの叫び声であった。
なまえはそれ以上は何も言わず、シンジが落ち着くまで彼の傍らに居た。
余計なお世話だとは分かっている。
けれど、彼を腕に抱いているなまえを、シンジが必要としてくれている事実が何よりも嬉しかった。
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