甘味

□六話
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数時間後、リディアは少量の荷物をまとめ、迎えの車に乗り込む。
数十分後には家に到着していた。

白い壁の外観のその大きな屋敷は、どこか寂しい空気を纏っている。


「お疲れ様でした。
お帰りなさいませ、リディアお嬢様。」

ドアを開けてくれた執事長に頭を下げる。
執事長と言っても、この家に執事はたった一人だけ。

久しぶりに自宅に足を踏み入れるリディア。
家の中は、自分が知っているままだった。


「お帰りなさいませ、お嬢様!!」

高い大きな声で、階段からリディアを呼ぶメイドが居た。

(アイ、だよね・・・?)

アイという名前のそのメイドは、すぐさま階段を駆け下りて、リディアの手を取る。

「少し、腕が細くなりましたね・・・。任務先で、きちんと栄養を取られていたのですか?」

(こういうところ、やっぱりアイだ。
全然変わってないなぁ・・・)

心配そうにリディアを見つめるアイに、ニコリと微笑む。
その姿に、アイは安心の表情を見せる。

「ザラ国防委員長様から、当家にも連絡がありました。事情は存じております。
ゆっくりなさってくださいね、お嬢様。必要なことが有れば、何なりとお申し付けくださいませ。」

リディアは手帳とペンを取り出して、アイに見せる。

[ありがとう、アイ。]

「ありがたきお言葉です、お嬢様。」

アイはその言葉を読んで涙ぐむ。
その姿を見て、執事のタナカも口元をほころばせた。




イノセント家は、代々続く名門の家である。
先代当主であったリディアの父、グレイン・イノセントが亡くなって以来、家に仕える者はたったの二人。
執事のタナカとメイドのアイの二人だけだ。二人は、祖父と孫という関係である。
他に仕えていた者達は、グレインが亡くなると続々と辞めていったが、二人だけはいつもリディアの側にいた。
そのことも、リディアが安心して家を空けていた理由である。
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