甘味拾肆

□世界の果ての儚い愛
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カオルの頼みを承諾したイズモは、自ら彼女に貸す機体まで案内した。
アリシアルームから格納庫へと続く通路を歩いている途中、イズモが口を開いた。

「何故、あの部屋に向かった?」

「あの部屋?」

「貴様がさっきまでいた部屋のことだ。」

「・・・分からない。ただ、勝手に足が向かっていた感じだ。」

イズモはカオルのことを知っていた。
もちろん、彼女とその弟にかつて課せられていた役目も。
おそらく彼女は神話に導かれたのだろう。
この世界で神話を語り継ぐために、その目に全てを焼き付けるために。

「そうか。」

「私からも質問させてもらう。あの男、ミカゲは一体何者なんだ。何故奴は、」

「それは俺も知りたい。ミカゲはアルテアのことなど、何一つ考えてはいないのだ。」

アルテアに生まれた一つの命として、カオルにその言葉が深く突き刺さる。
十年以上忘れていた本当の故郷、実は敵だと思っていた者に救われていた命。
誰かを守りたいと願っても、果たしてカオルにそれは可能なのだろうか。
分からない、だが分からないからこそやるのだ。
神話のページは、白紙のままなのだから。




「ベクターマシンや、アクエリオンとはまた違う構造なのか。」

カオルは乗り込んだアブダクター(アルテアでは“グニス”という呼称の機体)の操作手順を確認する。
本来ならハンドルがある部分は球体状の生体感知機になっており、これに触れて操縦するのだ。
出撃する前は感覚が掴めずに少々苦戦するも、上空に飛翔して戦場を旋回すれば、何となくだが機体を理解してくる。
これを見ていたアルテア最高司令官のイズモは、複雑そうな、それでもカオルの現状を理解したようなそんな表情を浮かべていた。

『機械天使に乗っていたというのは、嘘じゃないようだな。』

「当たり前だ。」

コックピットのモニターに映るイズモの言葉に、カオルは眉をひそめる。

「忘れてもらっては困るが、私は私の目的で動く。
ただその方向が一緒というだけで共闘するまでの話。それに、私はあなたのやったことを絶対に認めない。」

“イヴの呪い”によって男性になってしまったMIXの記憶を改ざんして一兵士にしたのはイズモの決定だった。
また、そこには彼女への配慮も少なからずあったのだろう。
男性となってしまった身で、女性の頃の記憶を持ち続けるのは可哀想だと思ったのかもしれない。
だがそれ以前に、MIXのパイロットとしての能力値がダントツに高かったからだった。
戦力として利用しない手は無かったのである。

『あぁ、熟知している。』

イズモは目を伏せた。
まるで、カオルに「申し訳ない」と言っているようだった。
神話型アクエリオンがいるポイントまで、カオルのグニスとイズモが繰るアフラ・グニスが飛翔する。
そこで二人を待ち受けていたのは、ただ一機戦場に残っているアクエリオンだった。
神話型アクエリオンを止めるために出ていたグニス隊は全滅していた。

「これは、」

『下がれ!』

アクエリオンの両肩に付いている翼が輝きを増す。
それはかつての生命の輝きではなく、暴力的な光だった。
カオルの操るグニスを庇うように前へ出たアフラ・グニスは、バックアーマーでアクエリオンからの攻撃を受け止めた。
そしてその攻撃を“倍返し”にする。
アクエリオンから放たれた攻撃は、パワーが倍となってアクエリオンへ向けられた。

『逆さまァ!!』

アクエリオンに乗っているカグラ・デムリが持つエレメント能力は“反転”。
倍返しされた攻撃は、反転の力によって方向を変えられた。
アフラ・グニスとアクエリオンの間で、攻撃が相殺される。
目が潰れそうになるほどの光を放つ。
カグラがここまで本気になるのには理由があった。
彼の愛しい“クソ女”であるミコノが、同じくアクエリオンに搭乗しているのだ。

『イズモ、クソ女は死んでも渡さねぇ!』

『何故だカグラ!何故そこまで、そのレア・イグラーに拘る!?』

『こいつが俺の、俺だけの、クソ女だからだ!』

カオルの操るグニスのモニターに、現在神話型アクエリオンに搭乗している三人が映る。
カグラ、ミコノ、そしてゼシカ。
ミコノ達もまた、この二機のグニスに誰が乗っているのか気がついていた。

『カオル先生、何で!?』

「ミコノ!」

事態に戸惑っているミコノが映る。
そしてそこへ、また一機のグニスが現れた。
オレンジ色の機体ミクシィ・グニスを操るのは、MIXことMIXYだ。
彼は重火器を携えて、アフラ・グニスを援護する。
情勢は三対一、神話型アクエリオンが劣勢にある。
ミコノはMIXYとカオルが操るグニスを攻撃しないようにカグラに頼むも、カグラは攻撃を続けた。
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