甘味拾肆

□神話をその身に宿す者
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神話を語り継ぐときが来た。

「全員、揃いましたね。皆さんに大切なお話があります。」

ネオ・ディーバ司令部内には、クレアや不動、スオミやドナール、そしてエレメント達が集められていた。
神妙な面持ちでそう言うクレアに、空気がピンと張り詰める。

「これから語られるのは、一万年と二千年、そしてその更に一万と二千年の前から受け継がれる悠久の神話。」

不動はそう語る。
それに異議を唱えたのはカイエンだった。
彼の親友であり戦友であるシュレードは、その身を削ってアクエリオンで出撃した。
カイエンが最後に見たシュレードは、血を吐きながら笑っていたのである。
君なら分かってくれるだろう親友、とシュレードはカイエンに無言で訴えていた。
彼を送り出すも、カイエンはその身を一番案じていた。

「馬鹿馬鹿しい!おとぎ話をしている暇があるなら、一刻も早く救援に・・・」

カイエンの言葉が遮られる。
彼が見たのは、不動がいつも眼帯で隠している右目だった。
そこには瞳が無く、代わりにあるのは青い地球。
その星に吸い込まれる感覚の後、カイエンを初めとするエレメント、そしてスオミやドナールも大きな本の上に立っていた。

「本の上!?」

「何これ!?」

「この本は、常に君達の傍らにあった。
遙かなる時の流れにも押し流されぬ不動の書物。その名を“創聖の書”・・・解禁!」

不動は重ね合わせていた両の手を開く。
その瞬間、眩い光が彼らを包んでいった。
遙か彼方に紡がれた神話が、彼らの前に現れる。
それは過去から今に繋がる、真実の物語。




時は、遙か二万と四千年前に遡る。
人類の敵とも言える堕天翅族、無数の敗北と無数の死による破滅の足音が迫っていた時代。
しかし、神の悪戯か、“殺戮の天翅”アポロニアスは美しき女戦士セリアンと恋に落ちた。
天翅と人間の許されざる恋である。
アポロニアスの操る機械天使は堕天翅族を打ち払い、セリアンと人類を守り抜いた。
しかし、光があれば闇も生まれる。
アポロニアスの許嫁であった堕天翅頭翅は、アポロニアスに憎しみを抱くようになった。
そしてもう一つ、闇の中で光を探す小さき者、アポロニアスに付き従っていた翅犬ポロン。
ポロンは事もあろうか、主人が愛したセリアンに報われぬ恋心を抱いてしまったのだ。
ポロンは孤独に星へ願う、「どうか生まれ変わったらあの愛しき人と結ばれたい」と。

そうして時は無情にも過ぎていき、神話の第二章が紡がれる。

一万と二千年という長き年月を越えて蘇った堕天翅族は大いなる闇として再び人類の前に現れた。
だが人々は、自分たちを救った伝説を忘れてはいなかった。
人々は伝説の導きによって発掘した古の機械天使を手に立ち上がった。
この時代、アクエリオンを操っていたのはアポロという名の少年。
この少年はアポロニアスの生まれ変わりと考えられていたが、本当はポロンの生まれ変わりであったのだ。
そして彼の想い人であったセリアンはシルヴィアという名の少女として生まれ変わっていた。
二人は不思議な運命に導かれ、戦いの中でお互いに惹かれ合っていった。
だが残酷にも、堕天翅族の頭翅も二人と同じ時代に転生を果たしていた。
憎しみの心をそのまま受け継いだ頭翅は、アポロニアスが守り抜いた人類を滅ぼそうと目論んだ。
しかし、彼の歪んだ愛は蘇った堕天翅族をも滅ぼすことになった。
堕天翅族完全復活のために植えられた生命の樹は、実を結ぶことなく、地球の大地を巻き込んで枯れ果てることとなる。
アポロはシルヴィアと結ばれることなく、世界を救うための人柱となった。
二人の別れの日、それは世界の始まりの日。

そして更に一万と二千年の時が流れ、神話の第三章が紡がれようとしていた。
その舞台こそが、彼らが生きる現代である。
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