甘味拾肆

□「おかえり、×××」
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「駄目です、わずかな時空の歪みさえ確認できません。」

クレアの言葉に、スオミ、ドナール、カオルの三人は肩を落とした。
MIXがアルテア界に連れ去られてから実に一週間が経とうとしていた。
教官三人は交代で昼夜問わず次元ゲートの出現ポイントを探していたが、結局は無駄に終わってしまう。
連れ去られたMIXの無事が、どうしても気になっていた。

「待つしかないってことですか。」

「次元ゲートを出現させる術を持たない我々には、それしか方法はありません。」

「しかし!」

「止めろカオル。お前だって分かっているんだろ。」

理事長に食いかかったカオルを、ドナールが冷静に諫めた。
カオルも自分が熱くなりすぎていたことに気がつき、一歩下がって理事長に頭を下げる。

「・・・すみません、理事長。」

「いえ、あなたの気持ちはよく分かります。」

クレアはカオルを見上げ、そして目を伏せる。
次元ゲートの捜索は、なおも続いている。



陽が傾き、世界がオレンジ色に染め上げられていく頃。
状況が動き出す事態が発生した。

「学園直上に、次元ゲートの出現を確認しました!」

オペレーター担当のエイの言葉に、教官達やクレアも身を乗り出す。
司令部内の正面モニターに映っているのは、聖天使学園とその真上にある大きな次元ゲートだった。
カオルは天井を見上げる。
この上に、アルテアへと繋がっている入り口がある。
この事態を受けて、エレメント達が徐々に司令部内へと集まってきた。
その中には、この一週間ずっと穴の中に居続けたアンディもいた。

「なあ、あれってゲートだよな!?
あれを使えば、MIXを助けに行けるんだよな!?」

アンディは勢いのままにクレアに尋ねる。
しかし、クレアは首を横に振った。

「いけません。」

「何でだよ!MIXがどうなっても良いのか!?」

「そういうわけではありません。
主戦力のあなたたちが居なくなり、その間に敵が来たらどうしますか?アクエリオンを行かせるわけにはいきません!」

クレアの答えは最もだった。
ベクターマシンが一機失われた今、もしアクエリオンがあのゲートをくぐってしまったら地球のアブダクターへの対抗戦力が一気に減少する。
また、このタイミングでの次元ゲートの出現は罠である可能性も捨てきれなかった。

「じゃあ私たち、黙って見過ごすしか出来ないの・・・?」

サザンカがぽつりと呟く。
その言葉は、皆の心に重くのしかかった。

「失礼します。」

そのとき、司令部内へ入ってきたのは学園長兼司令だった。
彼は手に、白い箱を持っている。
そして、それをクレアに差し出した。

「不動総司令から預かった物です。」

その一言に、皆がどよめいた。
クレアは立ち上がり、白い箱を開封する。
中に入っていたのは一個のドーナツ。
カオルとスオミが、そのドーナツに集っていたものを見て小さく声を上げた。

「うえ、これは・・・」

「蟻?」

ドーナツに集っている黒い影、その正体は蟻だった。
もぞもぞと動いていたたくさんの蟻は、しばらくすると姿を消してしまった。
皆が頭の上に疑問符を浮かばせている中で、クレアだけが不動の言いたかったことを察する。
クレアはドーナツの裏側をカオル達に見せた。

「なるほど、裏に蟻が集まったのか。」

「そう、そして・・・」

ぱかっとドーナツを二つに割る。
その中にも蟻が入り込んでいた。
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