甘味拾肆

□さかさまの愛
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「女は下がれ!奴の狙いは女だ!」

ドナールがそう言うと、女性エレメントを庇うようにして男子は前に出る。
カオルは地中から現れた赤髪の青年、カグラ・デムリからミコノを隠すために自身の方へ彼女を引き寄せた。
ミコノはカグラに怯え、その肩は小刻みに震えていた。
不動はカオル達が気づかない内にクレアを抱きかかえて高台へと移動していた。

「相手は生身だ!白兵戦の訓練を思い出せ!」

ドナールの右腕に装備されていたのは剣だ。

「俺に続けぇ!!」

ドナールはカグラに向かって突進する。
しかし、カグラの手から放たれた赤い光がドナールを包み込むと同時に彼の動きが止まった。
前に突き出されていた剣は押し出される力の反対、つまり押し込まれる力によって根本から砕けた。
カグラはドナールが動揺した隙を見逃さず、ドナールを地面に殴りつけた。

「教官!」

「待て、ここは俺の力に任せろ!」

他の男子エレメントにそう伝えたのはアンディだった。
彼は掘った穴に飛び込み、自身のエレメント能力を行使する。
今までのように掘りたい部分に手を触れなくとも、遠隔操作で穴を掘ってみせた。
カグラの足場が無くなり、そのまま地中に落ちる。

「空間補填!!」

すかさずMIXが穴を埋める。
以心伝心とも言える完璧な連携に、皆が嘆息した。

「これが修行の成果か。」

そのときだった。
MIXの真下から、再びカグラが現れる。
穴を埋める力を逆さまにし、穴を開く力に変換したのだ。
カグラはMIXに鼻を近づけ、彼女の臭いを嗅ぐ。
しかし彼女はカグラが求めている人物ではなく、彼は平然と彼女を放り捨てた。
放られたMIXを受け止めたアンディは、その勢いで穴に落ちてしまう。
カグラはカオルに守られているミコノに視線を向けた。

「クソ女はそこか!」

「何で、私を・・・」

「行くぞ、ミコノ!」

カオルはミコノの手を取って、そのまま駆けだした。

「俺も行きます、教官!」

「私も!」

彼女に続いてモロイとサザンカもやってくる。
総勢三人でミコノを逃がすためにその場から駆け去る。

「モロイ、これを!」

倒れていたドナールがモロイに投げたのは、彼の車のキーだった。
それをキャッチしたモロイは再び走り出す。
他のエレメントがカグラを足止めしている間に、ミコノをなるべく遠くへ連れ出す必要があった。
霊園に続く階段を下ると、広い駐車場が見えてくる。
そこに停められていた車に、四人は飛び乗った。
モロイからキーを受け取ったカオルがアクセルを踏み、車は発進した。

「大丈夫か、ミコノ?」

「はい。何とか。」

出しうる限りのスピードを出して、車は進んでいく。

「それにしても、あいつはどうしてミコノにあんなに執着心を?」

「決まっているじゃない。惚れたからよ!」

モロイの疑問に素早く問いを出したのはサザンカだった。

「男が女を追いかけ回す理由なんてそれ以外に無いわ。もちろん、男同士でもね。」

サザンカが嬉しそうに言っているのは無視だ。
このとき、ふと助手席に座っていたモロイがサイドミラーに目を向ける。
後ろから何かが迫っている。

「オオカミ?」

モロイの言葉に、カオルもサイドミラーを見た。
確かにこちらにやってくる。
赤い目をした獣、否、それはミコノをつけ狙うカグラだった。

「モロイ、少しキツイが運転交代だ。」

「ここで!?」

速度はそのまま、何とかカーブを曲がりきり直線の道を行く。
その間に、狭い車内でモロイとカオルは席を入れ替えた。
カオルは着ていたスーツの上着をサザンカに託し、助手席の下をごそごそと漁る。
取り出したのは銃だった。

「やっぱりな。」
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