甘味拾肆

□聖天使学園創立記念祭
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その日の授業が全て終わった後、放課後の活動に向かう生徒達とすれ違いながらカオルは女子寮へと向かっていた。
午前中に見たはずのゼシカが、午後の授業に出席しなかったのだ。
普段は軽い雰囲気を持つ彼女だが、根はとても真面目で滅多なことがない限り授業を休んだりしない。
MIXも様子が変だと言っていたので、様子を見に行くためであった。
具合が悪いのであれば医務室に行くことを勧めなければならない。
女子寮の扉を開け、階段を使ってカオルはゼシカの部屋を目指した。
石造りの女子寮は古い印象を与えるが、設備は最新の物ばかりである。
少々懐かしい気持ちになりながらカオルは廊下を歩いていた。

バンッ

廊下に響く大きな音。
カオルが走ってその場所に向かうと、大きく開かれた扉からゼシカが飛び出してきた。
ゼシカはカオルに気づくこともなく、そのまま廊下を走って目の前から去って行ってしまった。
呆気にとられてしまい、はっと気がついたときにはゼシカの姿を見つけることは出来なかった。

(何かあったのか?)

開けられたままの扉から、カオルは部屋を覗く。
これと言って特筆すべき点もなく、扉の内側は他の部屋と同じ風景のままだった。





「ゼシカ。」

「カオル先生?」

翌日休み時間、中庭にて。
外に続く回廊でゼシカが一人でいるのを見つけたカオルは彼女に声をかけた。
気のせいだろうか、いつもと様子が違う気がしてならない。
カオルが次の言葉に迷っていると、ゼシカはカオルの顔を覗き込んだ。

「どしたの、先生?」

「あ、あぁ。昨日授業に出なかっただろ。無断で休むなんて珍しいからな。」

「ちょっと気分が悪かったんです。でも寝たら良くなりました!」

「そうか。」

昨日は一体何があったんだ?
そう尋ねようとするも、カオルはその言葉を腹の中に引っ込ませた。
笑顔で答えるゼシカは、カオルが知っているいつものゼシカである。
気にしすぎか、とカオルは一人解決した。

「創立記念祭も近いことだし、あまり無理をしないように。」

「はぁーい・・・先生、」

「何だ?」

「・・・えっと、前回の授業の部分また聞きに行ってもいいですか?」

「あぁ、待っているよ。」

そのままカオルは次の授業がある教室に向かっていった。
彼女の背中を見送り、ゼシカはため息をつく。
カオルは気がつくことが出来なかった。
ゼシカの視線の先に一人の男子生徒がいたことに。
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