甘味拾肆

□禁断の出逢いと彼の旋律
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カオルは扉の陰から、アマタとミコノ、そして赤毛の少年を見ていた。
赤毛の少年は気絶したミコノを抱きかかえ、そのまま去ろうとする。
カオルは彼をどこかで見た覚えがあった。
一体どこで、いつ、彼を見たんだ。
もうすぐで出てくるというのに。

「ミコノさんを離せ!」

「おら!」

少年に飛びかかったアマタの腹を少年は蹴りつける。
何も躊躇しないその行動に、教育者として口を挟まずにはいられない。
既に社会科見学はアブダクターの進入によって強制終了されていた。

「アマタ!」

カオルは扉から出て、転んでいるアマタに駆け寄った。
強く蹴られたせいで、アマタはすぐに起き上がれなかった。
カオルは少年を睨み付ける。
少年は彼女の視線を何とも思わず、ただミコノを抱きしめる力を強くした。
その仕草で、カオルはようやく思い出す。
この少年はカイエンの未来予知に出てきた少年とよく似ていることに。

「何なんだ、お前・・・」

「カオル教官、」

「彼女は私の大事な生徒だ。返してもらおうか。」

「嫌だ・・・お前ら、変だ。
無臭の奇妙な男に、おかしな匂いのする女。」

殺して良いか?
赤毛の少年は、幼い子供のように尋ねた。
何の雑念も邪心も持たずに、ただ純粋にそうアマタとカオルに尋ねたのだ。
カオルはすぐにポシェットから銃を取り出して、少年を掠めるぎりぎりの場所を狙う。
銃弾を避けた少年は、それ以上二人に何の興味も示さずに去ろうとする。

「待て!」

「その子を離せ!」

「俺の邪魔をするな!こいつは、俺だけのクソ女だ!」

「違う・・・」

「アマタ?」

カオルの隣で立っているアマタは震えていた。
彼の中で直感が訴えかけている。
この男だけには、彼女を渡さない。
次の瞬間、アマタは既に駆けだしていた。

「お前なんかにミコノさんは渡さない!」

少年に体当たりしたアマタは、そのままミコノをおんぶして走り出す。

「飛べ、アマタ!」

「教官!」

「ここは任せろ!」

デッキから飛び出したアマタはミコノの体温を服越しに感じていた。
今彼女はここにいる。
少しでも遠くに逃げなければ。
黄金の翼がアマタの背中から生えて、二人は軽やかに着地した。
そのままアマタはもう一度走り出す。

「この野郎!」

赤毛の少年の怒りの矛先がカオルに向けられた。
雄叫びを上げる少年に飛びかかられてもいいように、返り討ちが出来る姿勢を取る。
少年の足がデッキを蹴って飛び上がる寸前、バイオリンの音色が二人の間を裂いた。
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