甘味拾肆

□トキメキ指数急上昇
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夕方

「というわけで、案内役をよろしく頼む。」

「・・・」

カオルはエレメントの一人、カイエン・スズシロにアマタ・ソラの世話を頼み込んでいた。
男子寮の監督役かつ教官であるカオルが頼めば、真面目な彼は素直に承知するだろう。
確かに今も承諾こそしたが、その表情はとてもキツイものだった。
一目で不機嫌だと言うことが分かる。

「カイエン。何故お前に頼むか分かるか?」

「何故ですか、カオル教官。」

「お前ならしっかりやってくれるというのが一つ。
それから、お前はあの少年に聞きたいこともあるだろう。案内がてら聞ける、というのがもう一つだ。」

「分かりました。」

「悪いな。私も手続きやら何やらが終わったらそっちへ行こう。」

「あの、カオル教官。」

「ん?どうした。」

カオルが立ち去ろうとしたところをカイエンは引き留めた。
何かを言い渋っているようである。
こういう時は急かしても無意味なので、カオルは彼が言い出すのを待つことにした。

「ミコノ、妹は・・・」

「彼女にもアマタ・ソラ同様に検査を受けてもらう。もちろん女子部でだ。
エレメント能力が分かり次第、彼女もここで学んでもらうことになる。」

「妹にエレメント能力はありません。」

「え?いやでも、あの子はお前と同じスズシロ家の人間で―――」

「それでもアイツは、何の力も持っていない・・・」

カイエンはそれ以上は何も言わなかった。
ただ苦い表情で俯き、何かを堪えているようにも思われる。
カオルは深い追求はしないことにし、彼の肩を軽く叩いてその場を後にした。
教官が心中を察してくれたことに礼を覚え、カイエンは頭を上げて、そして一礼する。
まるで背中に目が付いているように、カオルは片手を挙げてそれに返した。





「失礼するよ。」

ミコノ・スズシロの検査は、アマタ・ソラの検査前に行われた。
二人が学園に連れてこられたのが昨日の夕方。
アマタは残念ながら気絶していたので、彼女だけは軽い検査は昨日の内に終わらせておいたのだ。
少しだけ早く起床してもらい、残った検査(体力検査)などを済ましてもらう。
今は休憩室で休んでもらっている所だった。
カオルが休憩室に入ると、ミコノは窓の外を眺めていた。

「検査お疲れ様。これは私からの差し入れだ。」

「ありがとうございます。」

女子部の売店に売っている小さなチョコレートと温かい紅茶を手渡す。
ミコノは可愛らしい笑みを浮かべたが、それは一瞬のことだった。
すぐに思い詰めた表情を見せる。

「シュシュ、それ私の分だよ。」

「しゅ〜?」

ミコノがチョコレートの包み紙を開けると、彼女の肩に乗っていた小さな生き物がひゅっと飛び出てきた。
そのまま口にチョコレートを含んで、もぐもぐと咀嚼する。

「はは、可愛い猫だな。私の分をあげよう。」

「すみません・・・」

恥ずかしさで顔が彼女の頬が赤くなる。
こんな普通の子が、あのカイエンの妹だとはカオルも知ったときは驚いた。

「検査の結果、君にはエレメント能力が無いことが分かった。
家に帰るか帰らないかは君が決めることだが、学園側からも許可が必要でね。
もう少し待っていて欲しい。」

「分かりました・・・あの、」

「何だい?」

「アマタ君は、今どこに?」

カオルは立ち上がって窓を大きく開いた。
海に面しているため、少し強い風が室内に入り込んでくる。
カオルはミコノに隣に来るように促した。

「あの馬鹿みたいにデカイ壁が通称“ベルリン”。アマタ・ソラはあの壁の向こうにいる。」

「会うことは出来ませんか?」

「学園内での男女の接触は一切禁止。君達にも適用されるから、会うことは無理だ。」

「そうですか。」

「彼は午後に検査が入っている。せめて祈ってやってくれ。」

「え?祈る?」

「あの検査は吐くほどキツイからな。」
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