甘味拾
□哀れな人魚姫は、泡となって消えることも叶いませんでした。
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「何よ、あれ・・・!」
ふじのは足を止めた。
暗い中、ある場所から黒いエネルギーの塊が渦巻いている光景がふじのの目に飛び込んできたからだ。
嫌な予感と妙な既視感を覚えてふじのがソウルジェムを取り出すと、それは強い光を放っている。
ふじのが見つめている方向に魔女がいる証拠であった。
ふじのは魔女の反応がある方角へと走っていく。
ソウルジェムを強く握り、ふじのはさやかを探しているまどかを心の中で呼び続けた。
テレパシーが届く範囲なら、まどかに伝わるはすだ。
[か・・・どか・・・まどか!]
まどかは足を止めた。
頭の中に声が響き、掠れているその声を聞き取ろうと耳を澄ます。
「[まどか!]」
頭に響いていた声と、鼓膜を震わせた声が重なった。
まどかが後ろを振り向くと、そこには息を切らしたふじのがいた。
ふじのは膝に手をついて息を整える。
「ふじのちゃん!」
まどかはふじのに駆け寄って声をかけた。
ふじのは額にうっすらと浮かんだ汗を拭うと、まどかの手を掴んで走り出す。
突然のことにまどかは慌ててふじのに尋ねた。
「ふじのちゃん、どうしたの!?」
「さやかが、さやかがあそこにいるの!」
ふじのはまどかを掴んでいない方の手で、ビル群の間にある大きなうねりを指差した。
「何で分かるの!?」
「分かんないけど・・・あそこにさやかがいるのは分かる!だって私、」
あれを見たことがあるから・・・!
大きな黒いうねりは消えたが、ソウルジェムの光は消えなかった。
うねりが見えなくなった後は、ソウルジェムの反応を頼りにして走っていく。
まどかは走っている間は、何もふじのに尋ねようとはしなかった。
一歩手前を走るふじのの横顔を見て、きっと確かなんだろうと確信を持ったからだった。
やがて二人は見滝原市内のとある駅に着いた。
ホームに続く階段を駆け上がり、ソウルジェムの反応を見る。
「反応が薄くなっている・・・」
「ふじのちゃん、あそこにほむらちゃんたちがいる。」
くいっとまどかがふじのの制服を引っ張った。
ふじのが目を向けると、ホームを降りた線路の所にほむらともう一人、杏子がいた。
どちらからともなく歩き出し、二人に近づく。
遠くからでも、ほむらと杏子の間に緊張した空気が流れていることが分かった。
更に、まどかとふじのは信じられないものを目にした。
「嘘よ、さやかちゃん・・・」
杏子によって抱えられているのは、もう動くことのないさやかの肉体。
冷たさが杏子の腕に伝わってくる。
「そんな・・・」
足下が覚束なくなったまどかの肩をふじのが抱き寄せた。
一部始終を知っている杏子は、さやかの死に動揺しているまどかたちを見て悲痛な表情を浮かべる。
杏子は自分はさやかを止められなかったという思いに駆られた。
「どうしてさやかが・・・!」
「彼女のソウルジェムは、グリーフシードに変化した後、魔女を生んで消滅したわ・・・」