甘味拾

□あたしって、ほんとバカ
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翌日放課後


「家に帰ってない・・・?」


ふじのは携帯電話を片手に、呆然とした表情を浮かべた。
隣でふじのの会話を聞いていたまどかは、目に涙を浮かべた。

「はい、分かりました。」

ツーツー、と音がして電話が切れる。
ふじのが電話をかけていたのはさやかの家だった。
さやかは昨日まどかと別れたきり、その後の行方が分からない。
学校にも来なかった。
ふじのは携帯電話を制服のポケットにしまって、まどかの手を握った。

「さやかを探そう。
市内にはいるはずだから・・・!」

「うん!」

見滝原市は広い。
しかし、学生が行くような場所は市内の限られた場所だ。
さやかが行きそうな場所をあげて、ふじのとまどかは手分けしてさやかを探すことに決める。
二人の心とは真逆の、とても穏やかな放課後のことだった。





「あたし、何のために戦っているの?」

ガタガタと揺れる電車の中、さやかは問う。
見てしまったのだ。
恭介が仁美と仲睦まじく手を取り合う姿を、この目ではっきりと見てしまったのだ。
誰が腕を治したと思っているの?
ねぇ、私はここよ。
ここにいるのよ。
だから、だから私を見てよ。

「この世界って、守る価値あるの?」

「何コイツ、知り合い?」

「いいや・・・」

突然話しかけられた二人組の男性は、さやかの質問に対して眉をひそめた。
さやかの中で、真っ黒でどろどろとした感情が溢れ出てきて止まらない。
さやかはいつの間にか、目の前の男性に剣の切っ先を向けていた。

「ねぇ、教えてよ。
今すぐあんたが教えてよ。でないとあたし」


どうにかなっちゃうよ?





杏子は、一日中さやかを探し回っていた。
長い付き合いでは決してないし、ましてや特別仲がよいわけでもない。
それでも杏子は、さやかを放ってはおけなかった。
意地になって、他人のために魔法を使おうとするさやかの姿は、昔の自分を彷彿させた。
杏子は見滝原市内のとある駅に辿り着く。
ホームに続く階段を駆け上がると、そこには目当ての人物が椅子に腰かけていた。

「さやか!」

杏子は声をあげてさやかに駆け寄る。
さやかは俯いたまま、杏子を見ようともしない。
杏子は構わずにさやかの隣に腰かけた。

「あんたさぁ、いつまで強情張ってる気?」

「・・・悪いね、手間かけさせちゃって」

予想外のさやかの言葉に杏子は驚きを隠せない。
さやかなら「五月蝿い」とか言うと杏子は思っていた。

「な、なんだよ。らしくないじゃんかよ・・・」

「うん」


別にもう どうでもよくなっちゃったからね


杏子は背中に冷や汗を感じ、その場から少し後ずさりした。
顔をあげたさやかの瞳は、杏子を映していなかった。
死んだような目と、口元には不気味な笑みを見せる。

「結局あたしは一体何が大切で、何を守ろうとしていたのか・・・何もかも訳分かんなくなっちゃった」

杏子は、肌に伝わってくるざらざらとした雰囲気の発生源を見つけた。
さやかの手の中には、かつては水色のソウルジェムだったはずの真っ黒なグリーフシードがある。
黒い靄を出して、それはさやか全体を包み込んでしまうようだった。

「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって話、今ならよく解るよ」

まるで、さやかが知らない人物になってしまったかのように杏子は感じた。

「確かにあたしは何人も救った。
だけどその分、心には恨みや妬みが溜まって・・・一番大切な友達さえ傷つけて」

「アンタ・・・」

「誰かの幸せを祈ったぶん、他の誰かを呪わずにはいられない・・・あたしたち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね」


さやかは杏子を見つめる。
先程のような目ではなかった。
いつも通りのさやかで、しかし溢れんばかりの絶望がさやかを引き込んで離してはくれない。
さやかは涙を流し、ただ一言を自分自身に言う。
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