甘味拾

□君たちは甘すぎるよ
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同日
美樹さやか宅にて。
さやかは部屋のドアを開けて、真っ暗な部屋を見つめる。
勉強机にソウルジェムを置いて、スタンドライトを点けた。

「私たちを騙していたのね?」

ベッドの上にいるキュゥべえに問うさやか。
キュゥべえは白い大きな尻尾を振った。

「何で教えてくれなかったの」

「訊かれなかったからさ。
別に知らせなくても何の不都合もないからね。
あのマミでさえ気づかなかったんだから。
それに僕は“魔法少女”になってくれってきちんとお願いしたはずだよ?
実際の姿がどんなものかは説明を省略させてもらったけどね・・・」

さやかはキュゥべえを睨んだ。
しかし、キュゥべえは気にすることなく無表情のまま説明を続ける。

「人間は生命が維持できなくなると精神まで消滅してしまう。
そうならないよう、僕は君たちの魂を実体化して手にとって護れるようにしてあげたんだ。
少しでも安全に魔女と戦えるようにね。」

「大きなお世話よ!
そんな余計なこと・・・!」

「・・・君たちは戦いというものを甘く考えすぎだよ。」

キュゥべえはため息をついた。
ベッドの上から、勉強机へ飛び乗る。
まるで猫がボールを転がすように、さやかのソウルジェムに触れた。

「例えばお腹に槍が刺さった場合。
肉体の痛覚がどれだけの刺激を受けるかっていうとねぇ・・・」

薄暗い部屋の中に、水色の光が輝く。
瞬間、さやかはお腹に手を当ててその場に踞った。
それだけでは痛みを堪えることが出来ず、とうとうさやかは床に平伏した。

「これが本来の痛みだよ。
ただの一発でも動けやしないだろう?
君が杏子との戦いで生き延びれたのは、強すぎる苦痛がセーブされていたからさ。
君の意識が肉体と連結していないからこそ可能なことなんだ。」

さやかはギリッと床のカーペットに爪をたてた。
すると呼吸をするのもままならない痛みが、徐々に引いていく。
キュゥべえが、さやかの肉体の痛覚に刺激を与えるのを止めたからだった。

「慣れてくれば完全に痛みを遮断することも可能だよ。
動きが鈍るから、僕自身あまりお勧めはしないけどね。」

「なんで・・・どうして私たちを、こんな目に・・・!」

「戦いの運命を受け入れてまで、君には叶えたい望みがあったんだろう?
それは間違いなく実現したじゃないか」

可愛らしく頭を傾けるキュゥべえ。
さやかは、キュゥべえに対して睨むことしか出来なかった。





翌日

「そっか・・・さやか来てないんだね。」

「うん・・・」

お昼休みの見滝原中学校の屋上。
紙パックのジュースを手にして、ふじのとまどかは話をしていた。
ふじのは一口飲んで、すぐにストローを口から離した。

「ふじのちゃんは、平気なの?」

「ソウルジェムのこと?」

まどかはただ頷く。
実を言えば、ふじのは落ち着いていた。
元々、魔法少女なんて得体の知れないものになってしまっているのだから。

「もし、魔法少女の力が無くなったらそのときに元に戻るんじゃないかなって思う。
根拠はないけれどね・・・」

もう人間じゃない。
ただの光を放ち、魔女を殺すだけの石ころになってしまった。
時が経てば戻ると、ふじのは勝手に決めつけてしまった。
その思い込みは、後に最悪の形で、甘すぎたことを思い知らされることになる。
ふじのは空を見上げて、天に手をかざした。
太陽の光によって、赤い血潮がはっきりと目に映る。
もう人間じゃないなんて、そんな実感が沸くはずもなかった。
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