甘味拾

□意地っ張りなあの子
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杏子の槍が地面にのめり込んだ。
本来ならばさやかを頭から突き刺していたはずなのに、地面に刺さっている。

(アタシが外した?いや、違う・・・)

杏子は突如現れた魔法少女を見た。
紫色が特徴の魔法少女は、何か特別な武器を持っているわけでもない。

「ああ、そうか・・・アンタが噂のイレギュラーって奴か。」

ほむらは何も言わない。
手の内が分からないほむらを前に、杏子はほむらに対して武器を向けることを止めた。
一方、転んでいたさやかは傷口を魔力で修復して立ち上がる。

「また、お前かよ・・・!」

もう一度剣を握り、丸腰のほむらに斬りかかる。
しかし、一瞬でほむらはさやかの背後に移動した。
剣は音を立てて空気を切り、さやかはその直後倒れた。
ほむらがさやかの脳を揺らして気絶させたのである。
気を失ったさやかの変身が解かれた。

「さやか!」
「さやかちゃん!」


「おいアンタ。一体誰の味方なんだ?」

「私は冷静な人の味方で、無駄な争いをするバカの敵。
あなたはどっちなの、佐倉杏子?」

杏子は、初対面であるはずのほむらに名前を呼ばれたことで動揺する。

「アンタ、どこかで会ったか?」

「さあね・・・」

「・・・まるで手札が見えないとあっちゃねぇ・・・今日は退いた方が良さそうだな。」

「賢明ね。」

杏子は槍を手元から消して、ほむらに敵意が無いことを示す。
そのまま、建物の階段の手すりを伝って去っていった。
杏子が去ったのを見てから、ふじのは自分の変身を解き、さやかの介抱に当たる。
まどかは、ほむらに話しかけた。

「ほむらちゃん・・・助けて、くれたんだよね?」

「言ったわよね、鹿目まどか」

静かな声が更に静かに、怒気を帯びているのもはっきりとわかる。
ほむらはまどかを睨み付けた。

「あなたは関わり合いを持つべきじゃないと、もう散々言い聞かせたわよね?
一体何度忠告させるの?
どこまであなたは愚かなの?
愚か者が相手なら・・・私は手段を選ばない!」

言い終わった後、ほむらはふじのも睨み付けた。

「あなただって同じよ、飛鳥井ふじの」

ほむらは二人に背を向けて歩き出す。
紫色を身に纏っているせいで、ほむらの姿はすぐに見えなくなった。
後に残されたふじのとまどかの中には、何とも言えないものがあった。





翌日
見滝原市内のゲームセンターにて。
最新機種のダンスゲームに、一人の少女がいた。
赤い魔法少女である杏子だ。
「プレイ中の飲食禁止」の注意書を知ってか知らずか、杏子はチョコレートがかかったプレッツェルを食べながらプレイしている。
目線はゲームを画面を見つめ、足は軽やかに音楽に合わせてステップを踏む。
騒々しいはずのゲームセンターであるが、杏子は後ろにやって来た足音に気がついた。

「よお、今度は何さ?」

「この街をあなたに預けたい。」

凛と静かに響く声。
それは昨日、杏子とさやかの戦闘を止めた暁美ほむらのものであった。
杏子はプレイを続けながら、ほむらに聞き返す。

「どんな風の吹き回しよ?」

「魔法少女はあなたみたいな子こそ相応しいわ。美樹さやかや、飛鳥井ふじのでは務まらない。
それと美樹さやかの事だけど、あなたは今後手出しをしないで。
私が対処するわ。」

ほむらの答えに、杏子は適当に返す。
杏子が一番聞きたいのはほむらの狙いだ。

「この街をいただくのはそのつもりだったけどさ・・・
アンタは何者で、一体何が狙いなのさ?」


「一週間後、この街に“ワルプルギスの夜”が来る」
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