甘味拾

□わたしの日常
2ページ/2ページ

「はぁ、全くひどい目になったなぁ」

数学が終わった後の休み時間。
ふじのは保健委員会の書類を持って保健室に向かっていた。
委員長という役に着けば、やらなければならないことはたくさんある。
衛生週間や健康診断のお知らせ、その他色々とたくさんある。
また各クラスの保健係を集めなければならないな、と思いながら渡り廊下にさしかかった時だった。

「あれは・・・」

廊下のど真ん中で、二人の女子生徒が何かを言い合っている。
その内一人はふじのも知っている子で、もう一人は学校でも見かけたことのない子だった。
見かけたことのない子は、長い艶やかな黒髪を揺らして奥に消えた。
もしかしたら、自分に気づいて去っていったのかもしれない。
ふじのは残された子のところへ駆け寄った。

「まどか」

「ふじのちゃん・・・」

鹿目まどか、見滝原中学校二年生であり保健係である。
そして、まどかとふじのは家が近所なので幼なじみである。
ふじのが見ると、まどかは何やら暗い顔をしていた。

「ねぇ、さっきの女の子って・・・」

「私のクラスに来た転校生・・・なんだけどね」

「何か言われちゃった?」

ふじのの問いに、まどかは小さく頷いて俯く。
一体何を言われたのかと聞きたくなるが、あまり深く聞いてはいけないような気がした。
ふじのが黙っていると、まどかは俯いていた顔をあげた。

「ふじのちゃん・・・」

「何?」


「ふじのちゃんは、今の自分から変わりたいって思ったこと、ある?」


【どうしてお姉ちゃんみたいに出来ないの!?】
【どうしてお姉ちゃんなの。あなたじゃなくてお姉ちゃんが】

ふじのは手のひらに汗をかいたのが分かった。

「そんなことは思ったことないよ。」

「そっか・・・」

ふじのは元気のないまどかの肩をポン、と叩いた。

「不思議なことを言われたとしても、あんまり気にしちゃいけないよ。」

「うん。ごめんねふじのちゃん。どこかに行く途中だったんでしょ?」

「あぁ、保健室にね。まどかは?」

「特には・・・私、教室に戻るね。」

「またね、まどか。」

まどかはふじのと逆方向を向いて教室に向かう。
ありがとう、と先程よりも元気のある表情でまどかは手を振った。
特別なことなんて何もしてないのに、「ありがとう」と言うまどかはいい子だと改めて思う。
ふじのもそれに返して前を向く。


「いい子だね、彼女・・・」

「一体どこから入ってきたのよ・・・」

ふじのは自分の目の前にいる小さな生き物に向かって言った。
白い体に大きな耳、くるっとした真っ赤な目を持つそれは首をかしげた。

「君たちのいる場所なら、どこでも行けるんだよ。」

「へぇ〜便利だね。」

「それほどでもないさ。」

白い生き物は、廊下の手すりの上に軽い身のこなしで乗った。
そこは太陽を背にする位置、逆光であった。

「ねぇふじの・・・」

赤い双眼が不気味に光る。

「何よ?」


「鹿目まどかも、僕と契約してくれるかな?」


「キュゥべえ・・・」

キュゥべえと呼ばれた白い生き物は、ふじのが瞬きをしたら居なくなっていた。










つづく
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ