甘味拾
□新しい魔法少女
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【さぁ、受け入れるといい。それが君の運命だ】
「後悔なんてしていないよ、私・・・」
ごろん、と河川敷に寝転がってさやかが言った。
風力発電のための風車がくるくると静かに回る穏やかな陽気だ。
さやかはその陽気のように、爽やかな表情を見せた。
「さやかちゃんは魔法少女になって・・・怖くないの?」
「ん、まぁそりゃちょっとは怖いけどさ」
隣に腰かけているまどかの言葉に、さやかは静かに返した。
「昨日は運よくふじのちゃんが来てくれたよ。
でももし、ふじのちゃんが来なかったら?
まどかと仁美、二人とも亡くしてたかもしれないって方がよっぽど怖いじゃん・・・」
だからさ!
さやかは腕を前に勢いよく突き出して、その反動で起き上がる。
スカートについた草を払ってから、さやかは天高く拳を挙げた。
「あたしは後悔してない!
これからの見滝原市の平和は、この魔法少女さやかちゃんがガンガン護りまくっちゃいますよー!
なんてね!」
ただ、とさやかは落ち着いた声のトーンで続けた。
「一つ後悔があるとすれば、もっと早く決心しなかったことかな。
そうすれば、マミさんは死なずに済んだかもしれないし・・・ふじのちゃんがあんなに悲しむこともなかった。」
「私こそ、あの時に」
まどかは胸がギュッと苦しくなった。
あの場面を思い出すだけで、深い後悔の念が沸いてくる。
まどかが俯いたのを見て、さやかはまどかの肩に手を置いた。
まどかを安心させるために、さやかはいつもの笑顔を見せる。
「こーゆうのは、なっちゃったから言えることなの!
私には、命懸けてもいいって思う願いがあった、それだけだから。
まどかが気に病む必要はないの!」
「うん・・・」
「よし、じゃぁ私はそろそろ行くわ。」
「何か用事?」
まどかが尋ねると、さやかは少し頬を染めて嬉しそうにはにかんだ。
こんな風に笑うさやかを見るのは、久しぶりのことだ。
「まぁ、ちょっとね」
見滝原市市立病院屋上
美樹さやかの願い事、それは“上条恭介の腕が治ること”だった。
命を懸けてもいいと本気で思ったし、それが叶った今でも後悔は微塵もない。
恭介の腕が回復したこと、恭介が笑顔を見せたこと。
そして何より、もう一度恭介がバイオリンを弾く姿を見られたことが、さやかにとって最高の喜びとなった。
青空の下、恭介が奏でるバイオリンの音色が高らかに響く。
さやかは胸に手を当てて、その音色に耳を澄ませた。
透き通るような優しい音色は、今も昔も変わらない。
さやかが小さいときから聴いてきた恭介の音楽だ。
一度は絶望を味わったが、未来はまだまだこれからである。
さやかは、演奏が終わって嬉しそうに両親に笑いかける恭介を見る。
「マミさん・・・」
私の願い、叶ったよ
晴れ渡る青空は、まるで今のさやかの心を映しているみたいだった。