甘味拾

□伝えるよ、本当のこと
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「マミ、」

「今日はどうしたの?」

鞄を持ったまま、ふじのはマミに話しかけた。
時間は放課後。
マミも、鞄に自分の教科書を詰め込んでいた。

「今日は予定ある?」

「ないわ。」

「急でごめん。あのね、マミの家に遊びに行っていいかな?」

「?いいわよ。」

「ありがとう。あのね」


話したいことがあるんだ。



大きな新築のマンションの一室がマミの家だ。
数年前に事故に遭ってしまったマミには両親が居らず、遠い親戚しかいない。
見滝原を離れたくなかったマミは、ここで一人暮らしをしていた。

「お邪魔します。」

「くつろいでて。今、お茶を用意するから。」

「うん。」

マミはキッチンの方へと姿を消した。
ふじのは制服の中からチェーンに繋がれた指輪を取り出す。
握りしめれば、それは輝くソウルジェムに変わった。
ふじのはエメラルドグリーンのソウルジェムを見つめる。
シューシュー、とお湯の沸く音がキッチンから聞こえた。
カチャカチャとティーセットを用意している音も聞こえる。
これをマミに見られたら、もう隠すことは出来ない。
それでよいのだ。
先日の暁美ほむらの言葉が頭を過る。

「ふじの、お砂糖とミルクは・・・」

「なくて大丈夫。」

マミはテーブルの上にあるソウルジェムを見て固まった。
マミの手にはティーセットがあり、マミはなんとかそれをテーブルにのせる。
そしてふじのの隣に腰を下ろしてから、話を切り出した。

「いつ、キュゥべえと契約したの?」

「あの家出した日に・・・」

「じゃぁ、私が契約した後に。」

ふじのは頷いた。
マミは自分の指輪を擦ってソウルジェムを出現させる。
エメラルドグリーンと眩しいイエローが並んだ。

「私が魔法少女だって、その様子だと知っていたのね。」

マミは俯いたまま固まっているふじのの顔を覗き込もうとしたが止めた。
代わりに、ティーポットから紅茶をカップに注いでふじのに勧める。

「冷めちゃうわ。ふじののために美味しいのを淹れたのよ。」

マミは変わらず優雅にカップに口をつける。

「黙っていて、ごめんね・・・」

「黙っていたのは私も一緒よ。でも素直に言えば・・・」

「マミ?」

カチャッと音をたててマミがカップをソーサーに置いた。
そのすぐ後に、マミはふじのに抱きついた。
腕をふじのの首に回して、まるで彼女の中に閉じ込めるように。

「ふじのに言えずに戦うのは、辛かった・・・」

「私、怖かったの。いつかマミと衝突しちゃうんじゃないかって・・・」

魔法少女は、魔女の種であるグリーフシードを手に入れなければならない。
グリーフシードは魔法少女のソウルジェムを輝かせ続けるために必要なものである。
故に、魔法少女同士の縄張り争い、グリーフシード獲得のための衝突は珍しくないのだ。
ふじのはキュゥべえからそのことを聞いていたし、マミは魔法少女になりたての頃は何回かそういった目に遭っている。

「馬鹿ね、」

マミの声は涙声に変わっていた。
スン、と鼻をすする音が聞こえた。

「私があなたにそんなことをするはずないじゃない・・・」

「そうだよね、私バカだね。
マミは大事な友だちなんだもん」

「一人は辛かった。でもね・・・」


あなたのことを想うと、頑張れた


マミはふじのから少し離れて、ふじのに微笑みを向けた。
マミの白い手が、ふじのの頬をそっと撫でる。
何でもっと早く言えなかったのだろう。
私たちは、こんなに思い合っているのに。
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