甘味拾

□一つだけ言えるのは
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「今日一緒に帰れないの?」


放課後、鞄を整理していると申し訳なさそうにふじのが切り出した。
ふじのは両手を顔の前で合わせてマミに頭を下げる。

「ごめん。委員会の仕事しなくちゃいけなくて・・・」

「それなら仕方ないわね。
ショッピングモールはまた今度、改めて行きましょう。」

本当は今日の放課後にマミとふじのはショッピングモールに行く約束をしていたのだ。
ふじのは服を買いたかったし、マミは有名な紅茶専門店に行きたかった。
ふじのがもう一度謝ると、マミは笑って気にするなと言う。

「また明日ね、ふじの。」

「うん、また明日!」

マミは走って教室から出て行くふじのを見送った後、着けている指輪を擦った。
すると、指輪が光ってそのまま消えて、代わりにマミの手のひらには綺麗な宝石が乗っていた。
卵形のそれは綺麗な黄色に光っている。
マミはそれを握りしめたまま学校を後にする。
彼女が向かう先は今日ふじのと一緒に行くはずであったショッピングモールだ。

「ふじのが居なくてよかったわ。危険に巻き込むわけにはいかないもの・・・」

握りしめたままだった卵形の宝石は、ポワポアと淡い光を放つ。

「ソウルジェムの光が強くなっているわね・・・やっぱり、ここにいる」

マミは意識を澄まし、気配を感じ取る。





一方その頃のふじのは、保健室で雑務に追われていた。

「いやぁ、悪いわねぇ委員長さん。」

「いえ、委員長ですから・・・」

今度から始まる衛生週間についての企画を職員会に提出するためのプリント制作などをしていた。
副委員長は部活で忙しいので頼みづらく、結果的にふじのがほとんどの仕事を行っている。
ふじのはふと、キーボードを叩く手を止めた。

「先生、」

「何かしら?」

「二年生に転校してきた子って、何ていう名前なんですか?」

看護教諭はこめかみに手を当ててう〜んと唸る。
いや、転校生の名前くらいは覚えておこうよ。
そんな風に思ったが敢えて言わないでおく。

「思い出したわ、暁美ほむらさんよ。」

「暁美ほむら・・・なんだか格好いい名前ですね。」

ふじのが言うと、看護教諭も同じことを思っていたのか笑って頷いた。
ふじのはパソコンの文書入力中画面に目を戻して作業を続ける。
マミとの約束を破ってしまったから、今度カフェにでも行って何かを奢ってあげよう。
そんなことを考えながらキーを叩く。
しばらくするとプリントが完成した。
文面を確認してもらい、職員会議に回してもらうように手配してもらう。
これで今日のふじのの仕事は全部終わった。

「お疲れ様。気をつけて帰ってね。」

「はい。さようなら。」

ふじのが玄関に出ると、もう既に日が傾き始めていた。
そこでふじのは気がついた。
胸元が光っている。
その光っているものの正体は、ふじのがネックレスのトップにしている指輪だった。
ふじのがネックレスを外して指輪を握りしめると、エメラルドグリーンに輝く卵形の宝石が現れた。

「こっちか・・・!」

ふじのは家とは反対方向、ショッピングモールの方へと走り出した。
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