甘味鳩

□夜
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10月1日 昼過ぎ
凪紗は夏野を待っていた。
作業が出来るように、父親の手伝いで使っていたつなぎを着ている。
それだけだと少し目立つので、防寒も兼ねてパーカーを着ていた。
軍手とシャベルを手に、彼が来るのを待つ。

「来るの早かったね、ごめん。」

「いや、あの二人も早く来ているかもしれない。急ごう。」

「うん。」

高校生の男女が二人でシャベルを持って道を行く。
凪紗は幼い頃から村にいたからいいのだが、夏野は引っ越して一年経った今も珍しい者扱いされている。
そんな彼と彼女が一緒にいれば、余計な波風が立ってしまうかもしれない。
村人は噂話が好きだからだ。
よって二人は、人目のつかない林から田中姉弟との待ち合わせ場所に向かった。

「あ、もういるね。」

「そうだな。」

ガサッと、夏野が踏みつけた落ち葉が大きな音を立てた。

「ヒィヤアアアアア!!」

「「?」」

「あ、凪紗ちゃんと結城さん。」

突然現れた人影に驚いて、昭はその場に尻餅をついた。

「あきら、大丈夫?」

「これ持て!」

凪紗が昭を立ち上がらせ、夏野が持っていたスコップの一本を昭に渡す。
昭は二人が来ないと半ば諦めていた。
高校生と言ったって、所詮は自分の親と同じで何も信じてはくれないのか。
だが、二人は来てくれた。
昭の目に思わず涙がこみ上げてくる。

「へーえ、本当に来たんだ。ふーん・・・」

「かおり、恵のお墓の場所知らないから案内してもらえるかな?」

凪紗がかおりに振り返って尋ねる。
かおりは思わず自分が持ってきていた園芸用スコップを背中に隠した。
大きなシャベルと小さなスコップ、見比べて何だか恥ずかしくなってしまったのである。

「あ、うん・・・あそこの坂道を登ったところ。」

かおりはそう言って、指を指す。
夏野が先頭となって恵の墓へと向かう。
時刻はまだ午後二時過ぎ。
日が暮れる時間が早くなったとはいえ、まだまだ明るい時刻だ。

「よし、行くぞ。」

「でもさ、四人でシャベル持ってすげぇ怪しくね?」

「穴掘りの手伝いに行くと言えば、誰も気にしない。」

外場村の森は暗い。
明るさの面でも暗いし、雰囲気も暗いのだ。
うっそうと茂った暗い森の中には、村の者が眠っている。
四人はかおりの案内の元、清水恵の墓を特定した。

「ほ、本当にやるの?」

軍手をはめて掘る準備をする凪紗と夏野に向けてかおりは尋ねる。
返ってくる答えは分かりきっているのだが、それでも訊かずにはいられなかった。
かおりは二人に狂気じみた何かを感じ、後ずさる。
そのとき、彼女の足下に何かが転がっているのを見つけた。

「プレゼント?」

「これ、私が恵ちゃんに渡した誕生日プレゼントよ。
恵ちゃん、東京の大学に行きたいって言っていたから合格しますようにって・・・」

白い箱に赤いリボンがかけられたプレゼントは、土にまみれて汚れている。
確かにこれは、かおりが恵の棺に入れてもらった物だった。
何故、これがここにあるのだ。

「誰かが掘り返したからだろ。」

夏野は淡々と答える。
彼はシャベルの先端を地面に突き刺し、土を抉り始めた。
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