甘味鳩

□弑魑
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9月26日

「凪紗お疲れ〜」

「うん、また明日ね。」

放課後になると、部活に所属している人は皆早めに教室から出ていく。
凪紗は部活には入っていないので、友人達を送り出した。
今日は委員会の仕事も無いので、凪紗は学校の図書館で調べものをする予定だ。
鞄を持って、教室から出ようとした時に夏野に声をかけられた。

「凪紗、すぐ帰る?」

「ううん。図書館寄ってく。」

「ちょっと話があるんだ。待ってるから、一緒に帰ってくれないか。」

こんな発言をしたら、周りは勘違いして騒ぎ立てるだろうが、教室内には二人しかいなかった。
凪紗は夏野の言葉に驚きつつも頷いた。

「うん、分かった・・・」



一緒に図書室に来た二人は、鞄を机に置く。
凪紗は目当ての本を探しに行く。

【俺が守るから】

凪紗は夏野の言葉を思い出して顔を赤くした。
話って、何なのかな。
本を探すはずなのに、凪紗はそんなことを考えてしまう。

(ないない、絶対ない!)

本を片手に取って、頭を横に振っている凪紗の姿は実に奇妙だった。


「夏野君、お待たせ。」

凪紗は本を持って、夏野のところに戻った。
タイトルが夏野の目に入る。

「それ・・・」

「え、あぁ、これは・・・」

凪紗は咄嗟に本を隠した。
目線が宙を泳いでいる。
夏野は少し強引かもと思ったが、本を取って表紙を見た。

「夏野君!」

「“吸血鬼の歴史”・・・凪紗ってこういう話好きだったっけ。」

「笑わないで、聞いてくれる?」

そう答えた凪紗の表情は、とても真剣だった。



図書室で話すのもあれなので、二人は帰りがてら話すことにした。
その方が手っ取り早いし、夏野は辺りが暗くなる前に凪紗を家に帰したかった。
バスから降りて、二人は村の道を歩いている。

「見たの、夢を。」

「まさか清水の・・・?」

凪紗は頷いた。
そして、それを見たのは父親が亡くなった日だったという。

「寝ぼけていたかもしれないけどね。でも、お父さんの残したメモにこんなのがあったから・・・」

凪紗は鞄からメモ用紙を一枚取り出した。
少しクシャクシャになりかけていたが、それでも凪紗は丁寧に扱う。
凪紗は、夏野が以前に清水恵の夢を見たと言っていたのを思い出していた。
もしかしたら、凪紗の中ではあれを夢だとは思いたくないのかもしれない。
夏野はメモ用紙を手に取ると、きちんと目を通した。

「そうだよな。」

「?」

「この村はまだ、土葬の習慣が残っている。」

凪紗はその一言で全てを悟った。
夏野も自分と凪紗が同じことを考えていると分かった。

「信じてくれるの?」

「あぁ。俺、今日はそのことを凪紗に話したかったんだ。」

夏野は凪紗を真っ直ぐ見つめて言った。

「そうだったんだね。」

「絶対に、これだけは言えるんだ。清水は死んで、起き上がった。そして、徹ちゃんを・・・」

「やめて!!」

凪紗の甲高い声が、夏野の言葉を遮った。
耳を押さえている手は、何も聞きたくないと言っているようにも思える。

「怖いこと言わないで。徹ちゃんは違う、徹ちゃんは違う・・・」

「ごめん、凪紗。」

夏野はそっと凪紗の肩を抱き寄せた。
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