甘味鳩

□死
1ページ/6ページ



障子の向こうには誰かが居る

結城夏野はそれが誰なのかを知っている

気配はこちらに近づき、その姿を現した


「っは!!はぁ、はぁ、」

汗がだらだらと流れている。
ふと障子を見る。
時刻は明け方。
森に遮られて、朝日はまだ届いていない。
気配が近づく。
夢と同じ気配が近づく。



結城君




「うわぁぁぁあああ!!」


汗がだらだらと流れている。
障子を見た。
障子の隙間からは朝日が射し込んでいる。
そこで結城夏野は気づいた。
嫌な夢だ、と。







最近、夏野は悪夢に魘されていた。
出てくるのは決まって清水恵。
気のせいであってほしいが、日に日に彼女は夏野との物理的な距離を縮めている。
死んだ人間が、生者を苦しめている。

「勘弁してくれ・・・!」







誰かが枕元に居る

誰だ?

「夏野君」

控えめに夏野を呼ぶ声
夏野が名前で呼ぶのを許しているのはただ一人だけ

「凪紗・・・」


私、凪紗が嫌いなの
私より結城君と仲が良いし
いつもヘラヘラしているのも嫌いよ


その声は無邪気なようで、中には怨みのようなものも混じっている
夏野が目線をずらすと、凪紗は死んだように倒れていた




また夏野は起き上がる。

「冗談じゃない・・・!」

夢の中の凪紗は本当に死んでいた。
現実世界の彼女も、死んだらあんな顔になるのか。
それを考えたら、夏野は本当に恐ろしくなった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ