甘味鳩

□惨
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コンクリートは嫌いだ。
熱さを吸収できずに、そのまま垂れ流している。
独特の匂いも気に入らない。

今日みたいに、めちゃくちゃ天気の良い日のコンクリートは、いつもに増して嫌いだ。



「凪紗ー!!」

「徹ちゃん!」

凪紗は家から学校まで歩き続けるつもりだった。
愛用の自転車は、今日は彼女と一緒ではなかった。
後方から来た乗用車には徹が乗っていた。
声をかけられた凪紗は、車に駆け寄る。

「おはよう、凪紗ちゃん。」

「おはようございます律子さん。」

運転席に徹が、助手席には尾崎医院の看護師である律子が乗っている。

「今日は自転車じゃないの?」

「寝坊しちゃって、バスに乗ろうかと思ったらバスも逃しちゃいました。」

凪紗は鞄からタオルを取り出して汗を拭く。
やっちまったなー、と徹は笑う。

「てか徹ちゃんは免許取れたの?」

「まだ仮免。律っちゃんに車借りて練習中。さぁ、乗った乗った!」

言われるままに凪紗が後部座席に乗ると、夏野も居た。
目を瞑っているから寝ているのかと思いきや、彼は起きていた。
凪紗がドアを閉めると、徹は車を発進させた。

「おはよう凪紗。」

「おはよう。夏野君もバス逃した?」

「次のバス停に行こうとしたら抜かれた。凪紗は?」

「私は、寝坊かな。」

凪紗に律子が尋ねる。

「もしかして、林崎さんの絵のお手伝い?」

「はい。近い内に、町の方で講習があるみたいでその準備の手伝いしてました。」

「お疲れさま。」

律子は優しく笑った。
その様子を見て、徹は少し微笑んだ。

「ふぁ、眠い・・・」

凪紗は眠さから欠伸をこらえきれない。

「寝ても良いぞ?」

「ん、じゃぁ少しだけ・・・」

凪紗は鞄を膝に抱えたまま目を閉じる。
よほど眠かったのか、数分で小さな寝息が聞こえてきた。
気持ちいい涼しさの中で、凪紗は熟睡に入っていった。

「もう寝てる。」

夏野は凪紗を見た。
ガタゴトと、車が揺れるたびに凪紗の体も少し揺れた。
それでも尚、凪紗は眠り続ける。

トンッ

夏野の肩の上に凪紗の頭が軽く乗る。
凪紗からは香水なのか、それともシャンプーなのか、ほのかに甘い香りがする。

「夏野、優しいじゃん。」

「名前で呼ぶなって言ってるだろ。」

夏野は凪紗の首が痛くならないように、少し体勢をずらした。
徹がそれに気づくと、夏野は照れているのか顔を背けた。


「もしかして、あの二人は良い感じなの?」

「んーどうかな。でも夏野は凪紗のこと悪くは思ってないよ。夏野が名前を呼ぶの許してるのって、凪紗だけだし。」

小さな声で話す二人。
夏野には幸いにも聞こえていなかった。
夏野は、自分の隣の凪紗の寝顔を見て、少しの不安を覚えた。
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