甘味鳩

□腐堕
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その日、凪紗は朝早くから出ていた。
母親が居ない分、お葬式の準備などで行かなければならなかったからだ。

「ごめんねぇ凪紗ちゃん、朝早くから。」

「いいえ、お手伝いでも参加させてもらえるだけ良かったです。」

凪紗の父親は足が不自由なために、村の男衆の活動に加わることが中々出来ない。
だからこうして、凪紗は凪紗で、村の中に参加していく必要があった。

「偉いねぇ林崎さんとこの娘は」
「仕方ないさ、あの家の奥さんは」
「でも本当に良い娘さんに育ったさ」

周りの人達のヒソヒソと喋る声は、思いっきり凪紗にも聞こえていた。
でも凪紗は聞こえないふりをする。
その方が楽だし、別に何を言われても思うところも何もない。

清水恵の葬式は午後からだ。
それが終われば、会場は一気に宴会ムードとなってしまう。
流石に未成年である凪紗にお酒の席の相手をさせるわけにはいかないので、凪紗は葬式が終わったら帰ることになっていた。
それまでの我慢である。






式が始まる。
凪紗は持ってきた制服に着替えて式に参列した。
林崎家から会場までは距離があるので、父親は近所の方の車に乗せて貰ってきた。
同級生など、村から大勢の人が式に参列した。
凪紗はその中に夏野の姿を見つけた。
数珠も持たず、合掌もしていなかった。


「凪紗、来てたんだ。」

「うん。今日は朝から。」

夏野は両親と来ていた。
凪紗は二人に挨拶をし、軽く言葉を交わす。

「夏野君がお世話になって、いつもありがとうね。」

「いいえ、私こそ。」

「林崎さんも来ているのかい?」

「えぇ、あそこにいますよ。」

夏野の両親は林崎の所へ行ってしまった。
心なしか、夏野は二人が笑ってその場を去っていったように見えた。

「朝からってことは手伝いとか?」

「そう。うち、お母さんいないじゃない?だから私が代わりに出てこないと。」

そう言って凪紗は苦笑する。
嫌なら来なきゃ良かったのに、と夏野は思ったが外場村は閉鎖された村だ。
そんな村の中で色々あれば、何かと面倒なのだろう。夏野はあまり関心がなかったが。

「お疲れ。」

「この後の宴会に参加しないのはラッキーだったかな?こんな言い方、不謹慎かもしれないけど。」

「別に。俺もそう思った。先に帰る。」

「うん、またね。」

「あぁ。」

夏野は会場を出て行った。
太陽は容赦なく照っている。
その熱さも、夏野を億劫にさせる原因の一つだった。
そしてもう一つ、夏野を億劫にさせる物が待っていた。


「結城、夏野さん・・・ですか?」

可愛らしいイラストがプリントされた絵はがきを持って立っていたのはかおりだった。
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