甘味拾肆

□君の記憶
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地球、ヴェーガから次元ゲートを超えた先にある世界“アルテア”
この世界の片隅にある、トワノ・ミカゲが所有する神殿に彼女の姿はあった。
アルテア界に潜入したときのエレメントスーツのままで、横たわって瞳を閉じている。
彼女、カオルが勝手に逃げ出さないようにご丁寧にも檻の中に囲われていた。

[目を覚ましなさい、カオル。]

「う・・・」

カオルの瞼がゆるゆると動く。
ぱちっと眼を見開き、彼女は辺りをきょろきょろと見渡した。
彼女にとっては見覚えのない場所であるのは当たり前であった。
それと同時に、自分が檻の中に閉じこめられていることも知る。
カオルは、自分に語りかけた者の姿を見つけると、彼を睨め付けた。
がしゃん、カオルが掴みかかったことで折りが大きく揺れる。

[そういきり立つのは止めなさい。騒々しいですよ。]

「お前は・・・!」

[私の名前はトワノ・ミカゲ。アルテアの神官。
まあ言われなくとも、流石にもう記憶の封印は解かれたでしょう?]

うっすらと笑みを浮かべるミカゲ。
カオルは檻の柵の隙間から手を必死に伸ばした。

「ここから出せ!」

[出せと言われて出す馬鹿がどこにいる。
静かにしていた方が身のためですよ。君は今、あの病に冒されているのだから。]

眠りから覚めたカオルの体は回復しておらず、逆に悪化の状態にあった。
本当は今もこうして立っているだけで精一杯なのである。
それでもミカゲに突っかかろうとしていることが出来るのは、カオルの心が彼女を突き動かしているのだ。
ミカゲは苦しむカオルを見てほくそ笑む。
あぁ、それが私の求めているものなのだと、ミカゲの心は昂揚していた。
ミカゲは水鏡に手をかざす。
一体何をしているんだとカオルが目を向けると、向こう側に映っているのはよく知る少女だった。

「ゼシカ!」

カオルはゼシカの名前を呼ぶ。
しかし、カオルの声は向こう側にいるゼシカには届かなかった。

[若草色の君よ。残念だったねぇ・・・折角次元ゲートを開いてあげたのに。]

『お前は・・・!』

[ふふふ、約束は守ってもらうよ。]

『約束?私、何を・・・』

[今はまだ思い出せなくて良い。時がくれば果たされる―――]

ミカゲの高笑いが神殿の中に響き渡る。
カオルはゼシカが映る水鏡に必死に手を伸ばした。
触れることが出来れば、彼女を救えるかもしれない、そう願ったのだ。
しかし、水鏡の影はゆらゆらと揺れて消えていってしまう。
目を見開き、恐怖に怯えるゼシカの姿がカオルの瞼の裏に焼き付いた。

[無駄な足掻きは止すんだ。君には何も出来ない、運命を乗り越えることも。覆すことも。]

大事な者を救うことも叶わない、非力な女。
神話を宿す者としての能力を失った、惨めな女。
ミカゲの残酷な言葉がカオルの心に深く突き刺さる。
閉じこめられた檻の中で、カオルは絶望を吐き出すようにして叫んだ。
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