甘味肆

□この手のひらから心まで(シンジ)
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私、碇くんが好き。
声も、顔も、性格も、全てが大好き。
でもね、私はそうなるように生まれてきてしまったの。





「私は人間に生まれたかったの・・・」

「なまえ・・・」

シンジは、頭に銃を突きつけているなまえに対して何も出来ずにいた。
止めさせようと駆け寄ったとき、彼女に「私の血なんかであなたを汚したくない」と言われたからだ。
とは言ってもここはネルフ本部なので、異変を感じた葛城ミサトを筆頭に数名の職員がやって来ていた。
彼女が引き金を引くのを、止めるためであった。
ミサトは一歩前に踏み出した。

「止めなさいなまえ!」

「ミサトは黙っててよ!」

カッと頭に血が上ったように、なまえの顔が真っ赤に染まる。

「私は使徒よ!死んだって構わないじゃない!!」

第十八使徒名称“マリア”
本来使徒は十七体しか居ないはずだが、イレギュラーな存在としてなまえが生まれてきた。
見た目も、中身も、何も知らなかったら誰がなまえのことを使途であると考えようか。
第十七使徒であった“タブリス”こと渚カヲルは、人の容こそすれその中身は人を越えてしまっていた。
彼と彼女では、全く違うのだ。
ミサトはなまえのこめかみに銃が強く押し付けられるのを見て、そこで踏み留まった。

「シンジ君もミサトもオカシイよ。
私は使徒なのに、どうしてそうやって焦っているの?」

「僕は、なまえが使徒だなんて思えない・・・嘘だよね?」

シンジが弱々しく震えた声でなまえに尋ねる。
シンジの表情を見たなまえは切な気な目をした。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに、という無言の訴えが読み取れた。

「駄目よ。私は死ななきゃ」

「何で!」

「タブリス・・・いえ、渚カヲルがそうであったように。
私は私という存在をシンジ君の中に植え付けるためにこうするのよ。」

カヲルの名前を出した瞬間、シンジの心臓がキュッと締め付けられた。
呼吸の仕方が分からなくなり、彼を殺したときの手の感覚が蘇ってくる。
なまえは、それを望んでいるのだ。

「あなたは使徒じゃない。」

「いいえ使徒よ。」

「母親だっていた、生体反応だって人間だったわ。」

ミサトは過去形を使って言っていた。
つまりそれが意味するのは、なまえは今は人間ではないということだった。

「そんなの人間の女の子宮の中に隠れてタイミングよく出てきたに過ぎないわ。
それも全て神の子であるシ『やれ』

パンッと高い音が鳴り、時間が止まってしまったような感覚がその場を支配した。
赤い液体がなまえの胸から噴水のように吹き出した。
なまえは自分を撃つように命令した男がいる方角を睨め付ける。
なまえがその男の名を掠れた声で口に出そうとしたとき、シンジが崩れる彼女の体を支えた。

「駄目、だよ・・・汚れちゃうよ・・・」

「構うもんか、誰か早く!」

どくどくと流れ出る血は止まらず、早く止血しなければ彼女は失血死してしまう。
しかし、その場の職員たちはミサトも含めて動けなかった。
殺せと命じたのは上司である碇ゲンドウであり、なまえは使途であるからだ。
ミサトはギュッと下唇を噛み締める。
口の中に広がる鉄の味によって、矛盾を認めているのを痛感した。

「シンジ君・・・きれいなままでいて」

すっとシンジの目の前になまえの白い手が伸びてきた。
愛しそうにシンジの目を見つめた。

「私たちは駄目ね。
私たちは汚い色をしているわ。
きっと人間に嫉妬して、心が汚くなってしまったせいよ・・・」

「なまえ!」

「シンジ君、」
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