移行済・甘味拾

□その無力で嘆かわしい運命を憎む
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少年飛鳥井ふじやの人生は、あの白い生き物と出逢った瞬間から可笑しくなっていたのかもしれない。
もう少し辿れば、この街に生まれたことが間違いだったのかもしれない。
究極を言えば、少年として異質の力を持って生まれてきてしまったことが元凶だったのかもしれない。
ふじやは全てを憎んだ。
命の灯火が消える数秒前で、この惨事を引き起こしたであろう原因をいくつも考えていた。
そして彼の魂は生まれ変わる。
絶望を嘆き、脱出しようともがきながら絶望を新たに生む存在へと。
エメラルドグリーンの輝きは失われ、黒い宝石の輝きが空を切り裂いた。
新しい魔女を祝福している。

「■■■■」

少年の亡骸に降り立ったのは、一人の幼子。
何を言っているのかは人間は理解が出来ない。
突如、地面がうなり声をあげた。
瓦礫の山からは一糸乱れぬ正確な動きを見せる兵隊が現れ、道を作る。
真っ黒なカーペットが道にしかれ、その先を辿ると豪華な玉座が一つ鎮座している。
そこに座しているのは、一人の王。
赤と黒が織り混ざったドレスを身に纏った王が手に持っているのは羽扇子。
彼女こそが、王であり、新しく生まれた魔女だ。

“首切り女王”の魔女。
彼女の持つ性質は“断罪”。

死の間際で世界を憎み、自分の根源を悪と見なした彼が望んだのは裁かれることだった。
悪が裁かれれば、惨劇が起こることはないのだ。
だから、この魔女は全ての悪を許さない。
では、悪とは何か。
生きている者は、意図せずして悪を生む種となる。
“悪の根源である生命を裁いて消し去ること”、それが彼女の役目なのだ。

「■■■■■ ■■ ■■■」

玉座にいる女王は何かを口にした。
それが合図となって、兵士達が一斉に散っていく。
生きる者を連れてきて、縛り上げて、打ち首にするのだ。
彼女は泣いている、命を奪うことに。
しかし同時に微笑んでいる。
自分が裁けなかった悪を断罪できることが、至上の喜びであるからだ。





「ふじや君、どこにいるの?」

鹿目まどかは、さっきまで一緒にいた少年を探していた。
瓦礫の中を、最早湖となってしまった街をただひたすらに歩く。

「彼は死んでしまったよ。」

瓦礫の中に佇む白い生物、キュゥべぇ。
まどかはキュゥべぇの言葉を聞いて、膝から崩れ落ちた。

「そんな・・・」

「彼は相打ちになったんだ。
だから今も救われない。でもね、まどか―――」


君なら彼を助けられるよ


例えるなら、甘い蜜。
もっと言うなれば、底なし沼。
まどかはキュゥべぇの言うことを反芻していた。
彼を、ふじやを、この手で助けられる。

「本当に?」

「もちろんさ。さぁ、願うといい。
彼を救うことを、そのために魔法少女となることを・・・!!」
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