移行済・甘味拾

□ただひとつ、私が望んだことはね
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上条恭介が美樹さやかと必ず結ばれるとは限らない





「え・・・?」

「嘘ではありませんわ。私、ずっと前から―――」

―――上条恭介君のことをお慕いしていましたのよ。

聞き間違いなら嬉しかった。
予想もしていなかったことに、さやかは出すべき言葉が見つからなかった。
なんとか仁美に返すが、笑い声が無理矢理繕ったということを仁美は分かっていた。

「あはは、恭介のヤツも隅に置けないなぁ〜」

「さやかさんは、上条君とは幼なじみでしたわね?」

「ん〜まぁ、腐れ縁っていうかなんていうか・・・」

「本当にそれだけ?」

仁美はさやかの恭介に対する気持ちを理解していた。
それと同じ気持ちを自分が持っていることはひた隠しながら。
仁美の言葉は、真っ直ぐにさやかに突き刺さる。
さやかはこれまでにないほど動揺した。

「あなたは大切なお友達ですから、抜け駆けみたいなことはしたくありません。
ですから一日だけ時間を差し上げますわ。
それまでにお決めになってください。
自分の本当の気持ちと向き合えるように・・・」

手に持っているジュースがいつの間にか温くなっていた。
さやかの正面に座っていた仁美は既に帰路についていた。
さやかはそれも、あまりよく覚えていない。
仁美の言葉が頭から離れない。
何で、どうして、という疑問ばかりが浮かんでくる。
どうして仁美なんだろう。
どうして恭介なんだろう。
ガタンと乱暴に席から立つと、さやかは走ってその場から去っていった。





その夜はきれいな星空だった。
カーテンが引かれ、灯りも何も点いていない室内がほんのり青白く映し出される。
さやかはベッドの上で膝を抱えていた。
ふじの、マミ、杏子、ほむらの四人の顔が浮かぶ。
今日もきっと、見滝原市内で魔獣と戦っている。
自分は魔獣との戦いから逃げてしまった、とさやかは感じていた。
恭介のためならと思って受け入れた魔法少女の覚悟が、いとも簡単に崩れてしまった。

(仁美を助けなきゃ良かったって、本気で思った・・・)

さやかが魔法少女になって初めて戦ったとき、そこには仁美がいた。
人間の負のエネルギーの塊である魔獣は、その場にいる人間を容赦なく巻き込む。
仁美はたまたま、瘴気の濃い場所に居合わせてしまったのだ。
友達を助けられて良かった、とその時は本当に思った。
自分が戦えば誰かが救われる。
その事実は、恭介の絶望を前にして何も出来なかったさやかの心を満足させた。
それなのに今は、全てが憎く感じられた。
あたしは今、何のために戦えばいいの。
もう嫌だ、全てが嫌だ。
だってこんなにも、報われない。
さやかは枕を持つと、それを壁に投げつける。
柔らかい枕は壁に当たると形を崩してズルズルと落ちた。

まるで今の自分を見ているみたいで、ますます惨めになった。
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