移行済・甘味拾

□ただひとつ、私が望んだことはね
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「そっち行ったわよ、美樹さん!」

イエローの魔法少女の目線の先には、水色の魔法少女が剣を構えていた。
追い詰めた魔獣を逃がさないように、赤と紫、そしてエメラルドグリーンの魔法少女が援護をする。
大きな口をガバァッと、涎を垂らしながら迫る魔獣に向けて、水色の魔法少女は飛んだ。

「これで、トドメだ!!」





「グリーフシードも回収完了。
君たちのチームは回収効率がよくて助かるよ!」

「せめて“チームワーク”って言ってくれない?」

「生憎、僕たちの星にはそれに類する言葉は無くてね。」

真っ黒なグリーフシードをたらふく食べて、キュゥべえが満足そうに尻尾を振った。
そんなキュゥべえを見て、ふじのは一つだけ隠し持っていたグリーフシードを手で玩ぶ。

「ほらキュゥべえ。グリーフシードやるからちょっと黙って。」

ぽいっと投げたグリーフシードが街の光を反射してキラキラ輝く。
高く投げられたグリーフシードを落とさないように、キュゥべえは慌てて食べに行った。

「美樹さん、戦いには慣れたかしら?」

マミがさやかに振り向いて言う。
水色の魔法少女であるさやかは、マミの言葉に頷いた。
それを見てふじのやマミ、ほむらは安心した顔を見せる。
ただ、赤い魔法少女である杏子は腑に落ちない表情を見せた。

「何よ、杏子。」

「・・・後悔は、していないのか?」

「するわけないよ」

胸に手を当てて、さやかは眼を閉じる。
あの日、屋上で奏でられたヴァイオリンの音色は今も耳に残っている。
眼を開けて杏子を見る。
その瞳に偽りの色などは無かった。





「恭介君、もう学校来てるんだってね。」

「まだ松葉杖らしいけどね。
美樹さんがとても嬉しそうだったわ。」

放課後の見滝原中学校。
ふじのはカッターでテープをピリピリと剥ぐ。
保健委員長のふじのの手伝いで、マミも一緒に作業をしていた。
副委員長は部活がまだ終わらないらしい。
段ボールの中に詰め込まれているハンドソープを片付けながら話していた。

「願いを恭介君のために使ったこと、さやかは悔いてないみたいだし。」

「・・・でも、心配だわ。」

作業をしていたマミの手が止まる。
いつもよりも若干トーンが低かった。
ふじのはテープを勢いよく剥がし、それを丸めながら尋ねる。

「心配って?」

「美樹さんの、彼女の本当の気持ちよ。」

願いは一人につき一つ。
それは自分自身に直接関わることじゃなくても平気だ。
魔法少女の契約を交わす際の「何でも叶えてあげる」というキュゥべえの言葉に偽りはない。
さやかの願い事は“上条恭介の腕を治すこと”だ。
ここでマミが心配しているのは、それを願ったさやかの立場。
“上条恭介の願いを叶えた恩人”になりたい気持ちがあるかどうかだ。
一見すると違いはないように思われるが、実際は全く違う。
さやかがそこまで考えたのかが、マミには気がかりだった。

「自分の願いを他人のために使うのって、すごく難しいことよ。
ちゃんとしておかないと、辛くなるのは美樹さんだわ。」

「さやかは恭介君のこと好きだから・・・」

「ふじのには残酷なことを言うわ。」

それはふじのも思っていたこと。
さやかが望んでいるかははっきりしないが、断言できることだ。
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