移行済・甘味拾

□ハッピーエンドを望まずにはいられない
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祈りが絶望になるならば
彼女の祈りは無駄になるのか?



ふと、そんな問いがふじのの中にふつふつと沸いて出てきた。

「違うって、誰かが言ってたんだ」

見滝原市内、とあるビルの屋上に一人の少女がいた。
エメラルドグリーンに輝くソウルジェムを月明かりにかざしている。
かなり高いビルなのだが、彼女は臆することなく足をぶらぶらと宙に揺らす。
眼下を見れば、そこは障気が靄となって目に見えるほどであった。
ふじのの隣に座っているキュゥべえは、白い大きな尻尾を振った。

「何をだい?」

「ん〜、何でもないや」

きっとキュゥべえに話しても、ただの夢物語としか言われないのは目に見えている。
感情を持たない効率主義の彼らにとっては、祈りも絶望も特に関係ないだろう。
ふじのは立ち上がり、一歩前に踏み出した。
スッと片足が落ちて、ふじのは重力のままに下へ下へと落ちていく。
地面に着地するよりも早く、ふじのをエメラルドグリーンの光が包んだ。
辺り一面に広がる光を見て、いち早く反応したのは魔獣たちだ。
うーうーと低い唸り声を出しながら、のそのそとふじのに近づいてくる。
ストン、と着地したときにはふじのは魔法少女の姿に変身していた。

「今日は障気が濃いね。」

「・・・それだけ、人の呪いが積もりやすい場所なんでしょ。」

利き手を広げると、エメラルドグリーンの光から斧が出現した。
ふじのはバトントワラーのように斧を軽々と操る。
端から見れば斧が軽そうに見えるが、実際近くに寄ると重々しい空気の裂ける音がしている。
魔獣はふじのの背丈よりも遥かに大きい。
ふじのは魔獣の攻撃が来る前に上へ飛んだ。
パラパラと、魔獣が下のコンクリートを壊したせいで破片が顔に飛んでくる。
ふじのはブンッと大きく斧を振った。
竜巻のような突風が引き起こされ、障気の靄と破片が一掃される。
ふじのは迫る魔獣の群れの中心に着地した。

「ふじの、」

キュゥべえがふじのに何かを言う前に、ふじのは両手を大きく広げていた。
ジャラジャラと鎖がぶつかり合い、ふじのに喰いつこうとした魔獣に絡み付く。
鎖に拘束された魔獣は、そこから逃れようともがくが、鎖は更に絡み付いていく。
ふじのが片手を空にあげると、細いステッキが現れた。
これが処刑の合図を知らせるものとなる。
ふじのがステッキを横に降ると、地に平伏した魔獣の真上にギロチン台がセットされた。
中心にいるふじのに首を向けて、尚も魔獣は逃れようと暴れている。
しかし、一度処刑が決まったらその刑を避けることなど出来ない。
ふじのがステッキを下に勢いよく降り下ろすと同時に、刃が魔獣の首を断った。

「まったく、君も無茶な戦い方をするよね。つくづくそう思うよ。」

魔獣とギロチン台が消えると、後にはグリーフシードのみが残っている。
ふじのはグリーフシードでソウルジェムを浄化した後、拾ったそばからキュゥべえに向かって投げた。
キュゥべえはキューブ型のグリーフシードを背中でぱくぱくと食べる。

「毎回思うけど、それって美味しいの?」

「味わう前に、これは僕たちにとって必要なものだ。」

「そっか」

ふじのは夜空を見上げた。
今日倒した敵はいつもより多かったけど、この空の続く先にも魔獣はまだまだいる。

「今日の退治は終わり!
明日はマミとお疲れさまのお茶会だから、明日は出ませんように。」

魔法少女の変身を解き、ふじのは両手を合わせる。
今までもマミとのお茶会中に魔獣が現れたりしたことはあった。
仕方ないとは思っても、毎回迷惑だなぁと思う自分が居た。

「君たち人間が感情を持っている限り、それは難しいんじゃないかな?」

「・・・言われなくたって分かってる」
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