移行済・甘味拾

□ハッピーエンドを望まずにはいられない
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戦いながら、ふじのは考えていた。
話に出てきた例の強力な魔法少女は、やはり魔法少女の魔女化を止めたかったのではないかと。
ふじのには、何故彼女がそんなことを祈ったのかは分からない。
その祈りは全ての魔法少女を救う固定概念となる意味を持っている。
そもそも、その魔法少女自体があくまで架空の世界に存在しているわけであって。
ふじのがこれ以上考えたって仕方ないことだが、一つの問いがまた浮かんできた。


この世界は彼女にとってハッピーエンド足りうる世界なのか


「君たちにとってのハッピーエンドというのは、この世から全ての憎しみがなくなることじゃないのかい?」

キュゥべえは頭に疑問符を浮かべた。
確かに究極を言えば、そうなのかもしれない。
けれど、現実では自分以外の“他者”が存在している時点でそれは不可能だ。
加えて、人間には感情があり、それは必ずしも理性的であるとは言い難い。

「それはそうなんだけどね、」

ふじのは、みんながみんなニコニコ笑っている平和な世界を思い浮かべた。
きっとそれが、色んな人が思い浮かべる世界の理想像なのだろう。
しかし、想像して少ししたらふじのは違和感を感じた。
たかだか十五年しか生きていないふじのが言うのも可笑しいが、人間らしくないとはっきり分かる。
世界から絶望が消えれば、平和が訪れる代わりに人間はきっと感情を失うのだろう。
それはそうだ。
感情が無ければ、争うこともない、憎むこともない。
ふじのの足下に居る、このインキュベーターのように。

「何だい?」

「いや、別に。
きっとその魔法少女が望んだのは、世界から絶望を無くすことじゃない」

であるからして、その理由は


「魔法少女を救うためだよ」


本当に“魔女”が存在する世界があったとしたら、ふじのは絶望していただろう。
何故なら、ふじのが斧の刃で切り裂くのは魔法少女となるからだ。
バケモノになって、きっと彼女たちは泣いている。
その悲しみは他の魔法少女の希望であるソウルジェムを侵食し、悲しみは伝染する。
絶えず、途切れず、終わらず。

「じゃぁ、今のふじのは救われているのかい?」

「さぁ、それはどうだろう」

死の淵に立ってみないと分からないさ、とふじのはキュゥべえに言った。
キュゥべえは魔法少女の変身を解いたふじのの顔を見て、尻尾を左右に振った。

「何がそんなに面白くて笑っているのか、僕にはさっぱり分からないよ。
君には所謂“狂気的”な性格でもあるのかい?」

「よく知ってるじゃん、そんな言葉。」

「君たち人間とのコミュニケーション力を高めるためさ。」

キュゥべえの言う通り、ふじのは口許に笑みを浮かべていた。
しかし、それはキュゥべえが言うような“狂気的”なものでは決してない。
胸の中がすっきりしたような、そんな気持ちよさを感じたからだった。
重くつっかえていたものが、ストンと腹の中に落ちていった。


祈りが絶望になるならば
彼女の祈りは無駄になるのか?


あぁ、きっと、それは彼女が変えてくれたのだろう。
魔法少女の祈りは、絶望にはならない。
魔法少女が希望を望む限り、それは彼女たちの命懸けの祈りを守るのだ。

「まるで空想的だね。理解しがたい。」

「いいじゃない。だって」

私は、違う、私たちは。



「ハッピーエンドを望まずにはいられないんだから」










fin
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