移行済・甘味拾

□ハッピーエンドを望まずにはいられない
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キュゥべえの言っていることは実に正しいことなのだ。
嬉しいとか楽しいとかいうプラスの感情よりも、悲しいとか憎いとかいうマイナスの感情の方が生まれやすい。
しかも、これらは蓄積しやすく、また増幅しやすいのも事実だ。
全く奇妙なことである。
人間が望むのはプラスの感情であることは間違いないのに、結果として生むのはマイナスの感情だ。
それを魔獣が食べて、その魔獣を魔法少女が食らう。
希望の象徴である魔法少女は、魔獣が居なくては存在意義をなくしてしまうのだ。
なんて矛盾した存在なのだろう。
いや、世の理をねじ曲げて願いを叶えた彼女たちには、当然なのだろうか。

「プラスもマイナスも、表裏一体ってことなのかな?」

「宇宙はサイクルなんだ。
魔法少女も僕も、もちろん君も、そのサイクルの中に居るんだよ。
全ての事象が表裏一体なのは当たり前だと言えるね。」

「じゃぁ、希望と絶望は表裏一体?」

「かもしれないね」

ふじのは一つだけ手の中に隠していたグリーフシードを放った。
キュゥべえは素早く反応してグリーフシードに食いつく。
“かもしれないね”というキュゥべえの返答が、ふじのの中で引っ掛かっていた。
ふじのの考えを察したのかキュゥべえは彼女にこう続けた。

「魔法少女には未知なことが多いんだ。
ソウルジェムが濁りきると、ソウルジェムごと魔法少女が消える“円環の理”もそうだしね。」

“円環の理”
魔法少女が願いを叶えるということは、その願いの分だけ世界に歪みをもたらすことになる。
魔法少女となった者が、その祈りと一緒に消滅することで歪みをリセットする。
と、いうことをこの前マミが教えてくれたことをふじのは思い出した。

「そういえばこの前、ほむらが興味深い話をしてくれたんだ。」

「どういう話?」

「魔法少女が、“魔女”という存在に生まれ変わる世界の話さ。」

ほむらによると、その世界では魔法少女はソウルジェムが濁りきると“魔女”になるらしい。
魔女は、ここでいう魔獣に該当するとのことだ。
魔法少女は希望を持つ限り、最期に待っている絶望からは逃れられない。

「エネルギー回収の面で言ったら、彼女の言う世界の方がよっぽど効率がいいよ。」

「・・・そんな得体の知れないものになるのは嫌。」

更に話は続く。

「その世界で現れた魔法少女の祈りによって今の世界は構築された、という話だ。
興味深いだろう?」

「世界を作り替えられるほど強力な魔法少女なんているの?」

「僕の知る限りではいないよ。
けれど彼女が言った世界が“可能性としてありえた世界”だと仮定すれば、無理な話ではない。」

「・・・中学生には難しいな。」

この世界が、名も顔も存在すらも知らぬ魔法少女によって作り替えられたなら。
祈りによって生まれた世界に、何故彼女は絶望を残したのか。
ふじのにはそれが気になっていた。
それほどの力があれば、世界から絶望を消し去ることも可能なはずだ。
しかし、彼女はそれをしなかった。
目を閉じてじっと考えてみると、一つの考えが浮かんできた。
彼女が居た世界には“魔女”がいて、魔法少女は魔女になる運命を背負っていた。
彼女が変えたのは世界ではなく、魔法少女が魔女になるシステムだとしたら、とふじのは考える。

「ねぇ、キュゥべえ」

「何だい?」

「その魔法少女にとってはさ、この世界は幸せな世界なのかな?」

「人間の幸福には一定の基準がないから、僕には分からないよ。」

キュゥべえに感情はない。
ふじのは、分からなくて当然か、と考えて頭を切り替えた。
障気がまた濃くなったのだ。
先程退治したばかりなのに、ざらざらと不快な空気がふじのの頬を撫でる。

「近いね。」

「最近多くない?こういうこと。」

ふじのは魔法少女に変身し、障気を感じる場所へと向かった。
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