移行済・甘味拾

□時間よ廻れ
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「みんなキュゥべえに騙されている!」


ほむらは、一緒に戦っている仲間に真実を告げる。
しかし、返ってきたのは沈黙とさやかの呆れた声だけだった。

「あのさ・・・キュゥべえが私たちを騙して一体何の得があるわけ?
あたしたちに変なこと吹き込んで、仲間割れさせたいわけ?」

さやかのきつい口調に、ほむらは言い返せない。
そうでなくても、魔法少女が魔女になってしまう事実を証明することがほむらには出来なかった。
もちろん、キュゥべえの狙いも分からない。

「まさかアンタ、本当はあの杏子とか言う奴とぐるなんじゃないでしょうね!?」

「ち、違うわ!」

「さやか、言い過ぎだ。」

「それこそ仲間割れになっちゃうよ。」

ふじやとまどかがほむらをフォローした。
さやかはため息をつくと、腰に手を当てて今まで思っていたことを正直に言った。

「どっちにしろ、あたしこの子とチーム組むの反対だわ。
まどかやマミさんは飛び道具だから平気だろうけど、いきなり目の前で爆発とか勘弁してほしいのよね。
何度巻き込まれそうになったことか・・・」

ほむらの魔法では、敵に物理的攻撃を加えることは出来ない。
いつも手製の簡易時限爆弾で魔女と戦っていた。

「暁美さんには、爆弾以外の武器ってないのかしら?」

「ちょっと、考えてみます」



その翌日、ほむらは暴力団の事務所に赴いて武器を調達した。
銃や火薬を持ち出せるだけ持ち出し、扱えるように練習していった。
次第にさやかもほむらの能力を認めるようにはなったが、事態は悪い方へと転がり続けた。
結界、“さやかの魔女化”によってふじやたちはほむらの言っていたことが正しいと理解した。





「止めろ、マミ!」

「そこを退いてよふじや!!」

魔法少女の結末、それは魔女になること。
それを思い知らされたマミは強行手段に出た。
“人魚の魔女”の結界から抜けた後、マミは一緒に戦った杏子のソウルジェムを破壊した。
杏子の赤いソウルジェムが砕けた瞬間、彼女の変身は解け、その場に崩れ落ちる。
マミは魔法によって生み出したリボンでほむらを拘束するが、それを庇うようにふじやが前に出た。

「マミ!」

「ソウルジェムが魔女を生むなら、死ぬしかないじゃない!」

涙を流しながら訴えるマミ。
魔女になった仲間を討たなければならないなんて、そんなの嫌だった。
元は人間だったのだ、それでは魔女狩りは人殺しと一緒ではないか。
それに、魔女になってしまえばいつふじやを喰ってしまうか分からない。
それならば、いっそ

「私も、みんなも、死んだ方がいいのよ!!」

マミの指が引き金を引いた瞬間、彼女のソウルジェムが砕けた。
マミが撃った弾がふじやの頬を掠める。
小さく出来た銃創からは、血が流れ出した。
ふじやとほむらは、マミのソウルジェムを破壊した人物を見つめる。

「もう、嫌だ・・・こんなの嫌だぁ!」

弓矢を放り投げ、まどかは両手で顔を覆って泣いた。
ふじやは声をかけることも、何も出来ない。
魔法少女ではないふじやが、魔法少女であるまどかに何かを言ったところで、それは意味を持たないからだ。
リボンの拘束から解放されたほむらは、まどかに駆け寄ってその手を取る。

「大丈夫だよ、二人で頑張ろう!
一緒にワルプルギスの夜を倒そう!」

“二人で”
その単語が、ふじやの中に深く突き刺さる。
いくら素質があっても、なれないのでは仕方がない。
ふじやはまた、拳を握ってただ傍観することしか出来ない。





頑張ったのだ。
二人は、たった二人でよく頑張った。
しかし今回もワルプルギスの夜は倒せない。
彼女は今も、雨の海の中に転がる二人の魔法少女に笑い声を降りかける。

「私たちも、もうおしまいだね・・・」

「グリーフシードは?」

まどかは首を横に振った。
二人のソウルジェムは、今や本来の輝きを失って濁りが大半を占めている。
後もう少しで、魔女の仲間入りだ。

「ねぇ、私たちこのまま二人で、怪物になって・・・こんな世界、何もかもめちゃくちゃにしちゃおうか・・・」

ほむらは乾いた笑いを含めて言った。
守りたいものも、何もない。
守ると約束したふじやさえ、ワルプルギスの夜が起こした超災害に巻き込まれて死んだ。
魔法を持たない彼に、崩れた建物の下敷きになるなと言う方がおかしいのだから。
また守れなかった。

「嫌なことも、悲しいことも、全部なかったことにしちゃえるくらい・・・壊して壊して、壊しまくってさ」

そしたら、どれほど心は軽くなるのだろうか。
まどかは泣きながらそう言うほむらのソウルジェムに、隠し持っていたグリーフシードを近づけた。
ソウルジェムからは徐々に濁りが消えていき、紫色の光が戻る。

「何で私に!」

「私には出来なくて、ほむらちゃんに出来ること・・・お願いしたいから」

まどかはニコッと笑う。
きっとこれは、ほむらにとって残酷な頼みなのだろう。
でもまどかは分かってほしかった。
こんな運命、あんまりじゃないか。

「過去に戻れるんだよね?
こんなことにならないように、歴史を変えられるんだよね?」

「うん」

「キュゥべえに騙される前の、馬鹿なわたしを助けてくれないかな?」

ほむらはまどかの手を強く握りしめた。

「約束する・・・何度繰り返すことになっても、私があなたを救ってみせる!」

まどかが安心した瞬間、ソウルジェムの濁りが一気に広がった。
自我を保つのが苦しくなってきた。
底の見えない真っ暗な闇の中に、引きずり込まれていく。

「もう一つ、お願いしていいかな・・・」

「うん・・・」

「わたし、魔女にはなりたくない」

嫌なこともあったし、悲しいこともたくさんあった。
だけどそれ以上に、嬉しいことや楽しいこと、守りたいものも確かにあった。
魔女になってしまえば、それは全部消えてしまう。
先に逝ってしまったふじやにも、顔を合わせられない。
なんて悲しいことなのだろうかと、まどかは掠れた声で訴えた。

「まどか!」

「やっと名前で呼んでくれたね・・・嬉しい、な―――」

「うぅ、ひっう・・・うううううう!!」


ほむらは魔法少女に変身し、銃を手にとった。
まどかのソウルジェムに銃口を押し付けて、引き金を引いた。
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