移行済・甘味拾
□時間よ廻れ
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放課後、ふじやとほむらは校門で待ち合わせをした。
「はい、これあげる!」
ふじやがほむらに手渡したのは、紙パックのジュースだ。
パッケージには「△△社のうまいミックスジュース」と書かれている。
「本当に美味いんだ、これ」と言って、ふじやは嬉しそうに自分の分を口に運んだ。
ほむらもふじやを真似して、ストローを取り出して飲み口に差し込む。
ジュースを吸い上げると、甘酸っぱい果実の味が口の中いっぱいに広がった。
「美味しい・・・」
「だろ?」
ニシシ、とふじやは笑う。
二人はジュースを飲みながら歩いた。
ほむらは彼に聞きたかったことをどもりながらも口に出した。
「あ、あの、何で・・・一緒に帰るって、言ったんですか?」
ふじやはストローから口を離した。
「あぁ、何かほっとけなかったんだよ。
俺、まどかとは幼なじみなんだけどね。
妹みたいな、何て言うか・・・暁美さんもそんな感じで心配に思えてさ。
こういうのをお節介って言うんだろうね」
ふじやは苦笑いした後、ほむらに質問した。
「何で暁美さんは、下を向いてるの?」
ふじやは、ほむらが思い悩んでいる理由を知らなかった。
だから仕方なかったとも言える。
だが、ふじやの何気ないその問いはほむらの心を大きく動揺させてしまった。
プラスに傾きかけていた心のバランスが、マイナスに戻っていく。
「私、何も出来なくて。
人に迷惑をかけて、恥ばかりかいてる・・・」
ほむらはまた下を向いた。
夕日のオレンジ色に染まる歩道が、ゆらゆら揺れた感じがした。
「私なんて、どうすれば・・・」
[それならいっそ、死んだ方がいいよね]
ほむらの呟きに、ふじやではない声が答えた。
しかし、ほむらはそれに気がつかない。
「死んだ方がいいかな・・・」
[そう、死んじゃえばいいんだよ]
「死んだ、方が・・・」
「暁美さん!!」
強い力で肩を掴まれたことで、ほむらは我に帰った。
ほむらの名を叫んだふじやは、彼女を守るように自分の背にやった。
「っ、ここ、どこ・・・!?」
地面がどこかで見たような絵柄に変わっていた。
ほむらが上を見上げると、赤とオレンジの絵の具を混ぜたような模様が浮かんでいる。
現実味を帯びていない景色なのに、ほむらは漠然とこれは現実だと理解していた。
それは、ほむらがふじやの背を見ているからかもしれない。
「ごめん暁美さん、俺が余計なこと言ったせいで・・・」
ふじやは、この不可思議な空間の正体を知っていた。
ほむらのマイナスの心に引き寄せられてやって来た“魔女”だ。
ざらざらとした気持ち悪い空気が、ふじやとほむらを包む。
ゴゴゴ、と地が揺れる音を立てながら、芸術的な門が現れた。
中からは歪な形をした魔女の使い魔がよたよたと近寄ってくる。
「何、あれ!?」
ふじやは魔女や使い魔に対処する術を持っていない。
恐怖のあまり腰を抜かしたほむらをふじやが支える。
こちらに手を伸ばしてくる使い魔からほむらを庇うように、ふじやは彼女に覆い被さった。
瞬間、空中を黄金の光とピンク色の光が走る。
黄金の光は形状を変えて長い長い紐になり、ピンク色の光は使い魔を弾く。
ふじやは顔をあげて、周りを見渡した。
使い魔は黄金の光の紐に束ねられ、芸術的な門に縛り付けられている。
「間一髪・・・ってところね」
落ち着いた声は、ほむらの耳にも届いていた。
目の前に居たのは明るい髪の毛を持つ少女と、鹿目まどかだった。
しかし、制服姿でも私服姿でもない不思議な格好をしている。
「はは、サンキュー」
ふじやは別段驚く様子もなく、現れた二人に礼を言った。
呆気にとらわれているほむらに振り向き、まどかはニコッと笑った。
「もう大丈夫だよ、ほむらちゃん!」
「あ、あなたたちは?」
「彼女たちは魔法少女」
ほむらは驚いて後ろを振り向く。
そこには、白い見たことのない動物が居た。
ほむらは白い動物、キュゥべえの赤い目を見つめる。
「魔女を狩る者たちだ」
「いきなり秘密がバレちゃったね・・・クラスのみんなには、内緒だよ!」
まどかの手に出現したピンク色の弓矢が、その声と共に放たれた。
先程よりも大きな閃光が一直線に走り、使い魔と魔女を諸とも爆発させる。
ほむらはただ、ふじやの背に守られながらその光景を目に焼き付けていた。