甘味拾

□全ての始まりは、あの日から
1ページ/3ページ



『行方が分からなくなっていた、私立見滝原中学校二年生の美樹さやかさんが本日未明、遺体となって発見されました。
発見現場にも争った痕跡がないことから、警察では事件と事故の両面で捜査を続けています。』


ニュースが淡々と、女子中学生の遺体発見についての情報を流している。
ふじのはテレビを消した。
学校は、一連の騒動を受けて休校という措置を取った。
マスコミ対策や保護者への説明に追われ、授業どころではないのだ。
加えて、同中学校三年生の巴マミの失踪届けが警察に提出された。



「君に話したいことがあるんだ、ふじの。」

さやかの通夜に参加した後、母親は地区会の集まりに出掛けてしまった。
ふじのは一人、家で過ごす。
リビングに居るのが嫌で、ふじのは自室に戻った。
ふじのは戻らなければよかったと、心の底から思う。
部屋のドアを開けると、そこにはちょこんと可愛らしくキュゥべえが居た。

「何?」

「“時間走者”と言えば、意味は分かるかい?」

「“時間走者”?」

ふじのはキュゥべえに聞き返し、ベッドに腰かける。
キュゥべえはベッドサイドにあるローテーブルに乗っかった。
大きな尻尾をゆらゆらさせながらキュゥべえは話し始める。

「“時間走者”は、時間に干渉できる者を指す。
時間に関わる願い、魔法を持つ魔法少女がこれに当たるんだ。
ほむらは“同じ時間をやり直すこと”を願ったから時間走者であると言える。」

「それが何なの?」

ふじのはキュゥべえを睨んだ。
キュゥべえが一体何を言いたいのか、ふじのにはさっぱり分からない。

「一般人の君とまどかが、何故こんなにも大きな能力を秘めているのかが、ほむらの願いで全て納得のいく仮説が出来た。」

「まどかはともかく・・・私も?」

キュゥべえがまどかに目を付けていたのは、前から知っていた。
事ある毎に、キュゥべえがまどかに契約を勧めていたからだ。
今まではその真意が分からなかったが、今なら彼女が魔女になったエネルギーを期待していたというように理解している。

「君は特別な環境だと斧ではなくてギロチンを使える。
君の願いの内容からは考えられない現象だ。
でも、ほむらの願いによって束ねられた因果の渦の中に君たちが居るのなら、その現象にも納得がいく。」

ふじのは黙って聞いて、キュゥべえの目を見た。
真ん丸の赤い双眼に引き込まれてしまう感覚を覚える。

「魔法少女の力はね、背負い込んだ因果の量で決まってくる。
頭のいい君ならすぐに分かるよね?
ほむらによって、平行だった世界の因果は束ねられ、それが今の君たちに全て絡み付いているんだ。
だからまどかはあんなに膨大な能力を秘めているし、君は異なる戦闘力を持つことが出来た。」

しかし、そこでふじのに疑問が生じた。
同じ世界を何度も繰り返してきたならば、マミやさやかや杏子もまどかと同じ力を持つことになるはずだ。
けれども彼女たちは、一介の魔法少女として存在していた。
それは何故なのか、とキュゥべえに聞くとキュゥべえはすぐに答えを返した。

「決まってるじゃないか。
そんなの、君とまどかの存在が中心軸になっているからだよ!」

「何で、私たちが?」

「ほむらは、君たちの運命を何がなんでも変えることを望んでいるんだ。」

キュゥべえに感情はない。
しかし、ふじのにはキュゥべえの声が楽しさを含んだものに聞こえた。



「ほむらには感謝しなくちゃね。
彼女が、ふじのとまどかを最強の魔女に育ててくれたんだから!」




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ